権力を笠に着ている系クソ貴族令息×童貞真面目騎士

恥辱、屈辱、陵辱――有りとあらゆる辱めを一身に絶えず受けながら、ラルフは呼吸を荒げ、両手首を拘束する縄が白肌に深く食い込む事にも構わずその身を大きく捩り、眼前にて不敵な微笑を浮かべる男、レオの相貌を睨み据えた。
彼との出会いは忘れもしない、ほんのひと月前の事である。
たまの休日だからと街に繰り出していたラルフは意気揚々と、昼間から酒を提供しているという、ここらでは非常に珍しい酒場へと足を運んでいた。
陽の高いうちから味わう微酔は、格別なのだ。背徳混じりの解放感は、常に自身を律しなければならない厳格な騎士道に生きるラルフの心身を程よく脱力させ、日頃の鬱憤をふわりと和らげてくれる。
元々、嗜む程度であり酒好きというわけではなかったものの、この息抜きを覚えてからというもの、酒場通いがすっかりと趣味になってしまっていた。
その最中、まさに青天の霹靂――ほとんど嵐のようにして姿を現した男、レオはというと、いかにも堅物といった出で立ちのラルフが一人、カウンターの片隅にて麦酒を傾ける姿を見咎めるや否や、あろうことか勝手に会計を済ませた挙句、もっと良い酒を飲ませてやるなどと嘯いて自身の屋敷へまんまと連れ込んでみせたのだ。
勿論、ラルフも無抵抗のまま彼の暴挙に押し流されたわけではない。
傲慢な誘いを突っぱねようと口を開きかけたその時、馴染みであった店主の掌が、ラルフの拒絶を遮ると同時にこう耳打ちをした。
――奴は、お宅の団長を手足のように使う事が出来る由緒正しき有名貴族の令息だ、と。故に歯向かうのは得策ではないという忠告を突きつけられては縦社会に生きる男として、ラルフも無碍に断りの文句を口にすることが憚られてしまったのだ。
そういえば、噂に聞いた事がある。騎士団長がどこぞの大金持ちから賄賂まがいの金銭を受け取る代わり、様々な不祥事をもみ消しているらしいという、決して珍しくはない癒着の話を。
恐らくは自らの罪だけではなく、愛息子が引き起こした騒動も内々に処理させているのだろう。
程なくしてラルフはその予測が的中していたことを、身を以て思い知る羽目に陥る事となる。
騎士団の詰所よりも大きく頑丈な造りの大屋敷は、この世の贅をかき集めたのではないかと気後れするほどに豪奢で、煌びやかな調度品に満ち溢れていた。真っ当に稼いだ金だけでは、凡そ取り揃えることは難しいであろう、実に悪趣味な光景だ。
誘われるがまま、ラルフが足を踏み入れたのは、街の酒場とは比べ物にならないほどの高級酒が所狭しと並べられた小さなバーカウンターである。
そこで、彼はグラスを差し出しながら言ったのだ。お前に、極上の酩酊感を味わわせてやる、と。
注がれる琥珀の液体には、恐らく強力な眠剤が予め混ぜられていたのだろう。たった一口、喉に流し入れたその途端にラルフは全身の力を失い、そのままカウンター上にてレオの手により未開拓の肉体を、散々と貪られてしまった――以上が、彼との苦い馴れ初め話のあらましである。
何がレオの興味をそれほどまでに惹きつけたのか定かではなかったが、以降、ラルフは傲慢で悪趣味な貴族令息の執着によって私生活のほとんどを支配される事となった。
恐らく騎士団長伝手に情報を随時仕入れているのだろう、彼は休日になると必ずラルフの元を訪れては実に太々しい態度で例の大屋敷へと誘うのだ。
曰く、女すら知らない無骨な肉体を弄ぶ楽しみは、なにより愉快で背徳的だという。権力を傘にきた、放蕩息子らしい実に身勝手な思想と火遊びであった。

「純潔無垢な騎士殿が、聞いて呆れるなァ」

天井から吊るされた真紅の縄に両腕の自由を奪われたまま、彼はラルフの下顎を掴み上げ、天色に煌めく美しい双眸をうっとりと邪悪に眇めてみせる。
先ほどまで散々その指先で嬲られた乳頭は赤く腫れ上がり、受けた愛撫の激しさを赤裸々に物語っていた。
その上、ラルフの臀部、収縮を繰り返す窄みの奥には、どこぞの国から闇商人を使って仕入れたという男性器を模した趣味の悪い張形が深く埋め込まれており、腸動のたび、悪戯に蠢く粘膜内を掻き回す。
こみ上げる吐き気と、屈辱感。そして、決して認めたくはなかったのだが、そこへ僅かに入り混じる不埒な悦楽によって性的耐性のないラルフの心身は大いに乱され、なけなしの理性を打ち砕かれては目の前の男を悦ばせてしまうのだ。

「ン、ああ……っ」

異物を排出しようと蠢き、力が下腹にどうしても篭ってしまうその様は、云わば男としての、否――人間としての本能である。
だが、しかし。先端、生身の人体で例えれば亀頭にあたる部分に奇妙な細かい疣のようなあしらいの施されたその張型は、こちらが抗おうとすればするほどにその存在を強く主張し、爛れた粘膜に不本意な摩擦熱を生じさせながら其処に図々しくも留まり続け、ラルフの理性と矜持を粉々に打ち砕いてみせるのだ。

「いい加減に認めろよ。お前は澄ました顔で街の警邏なんかするより、ここで涎垂らしながらそうやって尻振って俺に飼い慣らされる方がよっぽど向いてるってな」

言いながら彼は、自身の容赦なき愛撫によって赤く腫れ上がった乳頭へと猫のようにざらりとした舌を這わせ、上目にこちらの様子を窺った。
その財力と権力、そして容姿の端正さも相俟ってか、傍若無人な振る舞いとは裏腹に女性たちから向けられた羨望の数は計り知れない。
それこそ、自らこの男の性奴隷になりたいとせがむ娼婦たちも少なくはないだろう。彼が望むのであれば、具合の善い男慣れした美しく若い少年さえも容易く手に入れられるに違いない。
にも関わらず、何故レオはわざわざ自分のような性的経験皆無の無骨な同性にここまで執着を向けるのだろう。
珍獣を飼い慣らそうとする金持ちの道楽気分でいるのか、なんなのか。不可解なその気まぐれは、彼からすれば他愛もない日常なのかもしれない。理解に努めること自体、結局は無駄な事なのだ。

「もう二度と、女を抱けない身体にしてやったんだ。俺が居なくなったら、これからどうやって生きていくつもりだ?」

啄ばみ、吸われ、甘噛みを繰り返した後、再びざらりと舐られる。
絶妙な緩急を以て齎されるそのじりじりとした鋭くも甘い快楽に、いよいよ全身の筋肉のみならず、思考や脳に至るまで強烈な熱を発してラルフのすべてを溶かしにかかるのだ。

「夜な夜な、男でも買おうってか。だがな、他の野郎でお前は満足が出来るのか? 女を知らないまま、ケツ抉られて悦ぶようになっちまったお前のだらしないその身体を、どうにかしてやれる人間がそう何人も居るとは思えんがな」

乳頭の先にレオの鋭い犬歯がずぶりと沈んだ。
瞬間、痛みより、屈辱より、先行して訪れた感覚は「悦楽」であった。
掻破によって生じた痒みを上回る快感のように、それはどうしてだか際限なく爪先から湧き出ては駆け上るラルフの肉欲を満足させ、同時に更なる渇望を植えつけて堕落へと誘っていく。
疼いて止まない肉欲を乱暴に慰めることで得られる充足と、果てのない飢餓。それらが交互に訪れては自らの体内で掻き混ぜられていくようなその感覚は、恐らくラルフ一人きりでは再現する事が出来ないであろう、謂わば蹂躙だ。自らの手が届かない場所まで潜り込んだその異物らによってのみ与えられる不埒な快楽は、まるで禁じられた薬物の副作用のようにラルフの心身を蝕んでは虜にする。
望んでいたものではない。だが、それを知ってしまった以上、もはや忘れることも断ち切ることも出来なくなっていた。
これは、紛れもない依存である。そう自覚した瞬間、ラルフの肉体は無意識のうちに脱力し、抗うことを放棄してしまう。
反発すればするほどに募る欲望を抑え込むことに疲れてしまったのかもしれない。それは紛れもない、諦念であった。

「言えよ、ラルフ。俺が欲しくて仕方がないって」

ふと、両手首にきつく巻きついていたはずの赤縄がするりと解け、なんの前触れもなくラルフの体はしがらみを失い、悪趣味な絨毯上へと頽れる。
立ち上がる気力は、もうなかった。否――逃げ出そうなどという腹積りが、そもそも消え失せていたのかもしれない。

「お前はもう、俺の所有物だ。その人生ごと、買い上げてやるよ」

膝を折ったまま、ぼんやりと虚空を見つめるラルフの視界に、再び天色の美しい双眸が現れる。
眇められたその眼差しに浮かぶは、歪んだ独占欲と好奇心。そして、不可解な熱を孕んだ微かな炎である。
それは愛憎にも思えたが、しかし。世界を金と権力で牛耳らんとする男が抱くにしてはあまりにも無垢な感情であると、なかなか認めるに至らない。
そう、これは単なる気まぐれであり、道楽なのだ。
彼には愛も憎悪もなく、ただ物珍しい玩具を手元に置いて飽くまで弄びたい――それだけなのだ。
だが、しかし。その奇妙なほどに真っ直ぐで熱っぽい眼差しが、要らぬ妄想を掻き立て、乱し、ラルフの平静を一滴残らず枯らしていく。
執着に意味を持たせることで、自分は「選ばれた」のだと思いたいのだ。恐らく、自分は。彼の特別なのだと言い聞かせ、単なる玩具などではないと現状を知らず知らずに肯定しようとしている。
情けがなかった。なにせラルフは他人にこれほどまで求められた経験を持っていなかった故、単なる性欲の捌け口としての情交と、恋人たちが肌を重ね合わせるひと時の区別を上手く付けられずにいたのかもしれない。
これから彼なりの愛情表現だと言うのであれば、受け入れても構わないとさえ考えてしまうなんて。つくづく、無知とは恐ろしいものだった。

「さあ、尻をこっちに向けて突き出せ。お前の腹を内側から掻き回して、腑抜けにしてやる」

弾むその口調は興奮に掠れて上擦り、抱いた情欲が取り繕うことなく滲んでいた。
無邪気で残酷な、他人を使い捨てることに躊躇のない傲慢な命令だが、もはや拒絶する気力も理由も見失っていたラルフは四肢の自由を取り戻しても尚、首を横に振ることすらままならない。

「あ、う……」

よろよろと絨毯の上を這いながらレオに背を向けると同時、上体を深く折って突きつけられた要求通りに張型が未だ深く埋め込まれたままでいる臀部を高く突き出した。
その姿はまさに、飼い主へと媚を売る従順な狗である。

「あ、は……ッ」

物欲しげに腰を捩ったその瞬間、張型の先端が前立腺のしこりを押し上げた為、ラルフはほとんど絨毯上へと這いつくばるような姿勢で情けなくもだらりと頽れ、掲げた臀部を何度も細かく痙攣させた。

「いいぞ、ラルフ。傑作だ!」

背後から轟く、男の高笑い。その声音から溢れる歓喜と侮蔑すら、粟立つラルフの肌をぞろりと妖しく撫でて更なる悦楽を生み出していくのだからもう抗う手立てはなかった。

「今日限り、騎士団は抜けろ。親父の言いなりになるような腑抜けが上に立つ組織なんざ、どのみち長くは保たないからな。此処でこうやって股を開いている方が、よっぽど安泰だ」

反り上がった背に、ぴたりと重なる男の胸板。そして腰。
生ぬるい吐息と共に耳朶へと囁かれたその言葉に、ラルフはほとんど無意識で頷き返していた。

「ああっ、う……。あああ!」

深くまで埋め込まれた張型が勢いよく引き抜かれると同時、ラルフの直腸を貫いたのは灼熱であった。
無機質なそれとは違い、確かな体温を持ったその楔に穿たれるたび、悦ぶような情けのない嬌声が意図せず溢れてしまうのを止められない。
容赦なく掻き回され、突き上げられ、揺さぶられ続けたその先に待っているのは虚しい喪失感だけであると散々教え込まれたはずなのに、どうしてだかラルフは懲りずにその瞬間を求め、律動に合わせて自らも腰を振ってしまう。

「……見込みがあるなァ、ラルフ。男も女も知らなかったくせに、芸を覚えるのが早い」

レオは掲げられた臀部を力強く蹂躙しながら、後ろから手を伸ばし、細く長いその指先を唾液に塗れたラルフの口内へと容赦なく突き入れ、掻き回した。
舌裏や上顎を擦られ、そして時に柔く擽られ、より呼吸が荒くなる。
やがて命じられた訳でもないのに、口腔内にて蠢くそれを窄めた唇で扱き、性器が如く愛撫を始めたラルフはその口端からだらしなく涎が溢れることも厭わないまま、それこそ駄犬じみた仕草で必死に舐り、全身で服従を誓って示してみせた。

「ン、ああ……」

鼻から抜けるようにして溢れた吐息は甘く、粘着質である。小型犬の甘え鳴きと大差のない媚態だが、しかし、主人となったレオはその仕草を酷く気に入ったようだった。
「お前はもう、俺なしでは生きていけない愛玩動物だ。存分に可愛がってやるよ、そうやって尻を振り続けている限りな」
語尾と同時、より深い場所で熱が大きく爆ぜた感覚に苛まれ、その背徳と奇妙な充足感に、ラルフはうっとりと瞳を閉じる。
既に騎士道など、この心にはない。あるのは、この傲慢な男に対する半ば洗脳に近い服従心と、何度味わっても飽きることのない悦楽への渇望――ただそれだけだった。