NTR 幼馴染物(BAD ED)

鮮やかな晴天がどこまでも広がる、夏の日の午後。
長期休暇が齎した解放感に誘われ、少し気が大きくなっていた僕は幼馴染と連れ立って少しばかり遠出をしていた。
とはいえ、当時小学生だった僕たちが徒歩で移動できる範囲など、たかが知れていたのだが――いつもと違う道を、その時の気分だけで曲がってみたりと思い付きのままに歩を進める自由な感覚は、幼い僕たちの心を大いに弾ませ、ひどく愉快な気分を齎してくれたものだった。
しかし、この日ばかりは少々、気分に任せて歩きすぎてしまったらしい。
西の空が既に茜色へと塗り替えられつつある時刻になっても見知らぬ通りに迷い込んだまま、僕たちは途方に暮れていた。

「……どうしよう、道を聞いた方がいいのかな」

そんな不安に滲む幼馴染の声を耳にした途端、体中に満ちていた冒険心はたちまち砕け散り、代わりに言い知れぬ不安が流れ込んでくる。
だが、それを態度として表に出してしまえば最後、彼女は情けない僕の事を嫌いになってしまうかもしれない。楽しかった夏休みの思い出が、すべて失われてしまうかもしれない――。
幼稚な懸念に捉われ、焦燥にかられた僕はこの現状を打開できるような何かがないかと慌てて辺りを見回した。
「あっ、あそこで聞いてみようか」
その時、僕の視界に飛び込んできたのは、まるで御伽噺にでも出てくるような一軒の大きな屋敷だった。
随分と古い洋館らしく、聳える外壁はひどくくすんで見えたが、屋敷を取り囲む高い生垣は何かの芸術のように均一な長さで整えられており、そこが無人の館ではないという事を暗に示していた。

「で、でも……」

迫りくる夕闇の中、静かに佇む洋館に気後れしているらしい彼女はその愛らしい顔立ちをより一層の不安で歪めてみせたが、一刻も早くこの非日常から脱出せねばと急いていた僕は何の根拠もなく「大丈夫だから」と彼女の手を引き、屋敷の門へと歩み寄る。
だが、しかし。錆びた鉄の門はどうやら内側から固く施錠されていたうえ、インターフォンの類も傍には見当たらない。
建物の構造から察するに、ここが正面玄関にあたるはずなのだが別に入口があるのだろうか。もしくは、館の主は留守にしているのかもしれない。
それを確かめるべく、僕は彼女の手を引いたまま生垣に沿って屋敷の奥へと歩を進めてみる。
在宅であるならば今時分、なんらかの生活音が聞こえてくるはずだと考え、耳を澄ませながらそのまま屋敷の丁度裏手へと回り、そこから改めて洋館を見上げてみたのだが、

「あれっ、電気ついてるじゃん」

二階の窓越しに、ゆらゆらと揺れる灯りをひとつ、見つけることが出来た。
どうやら天井から吊るされているらしいその裸電球の照明が振り子のように揺れる様は、何故だか屋敷自体が呼吸をしているのではという錯覚を覚えるほどに不気味であり、どこか神秘的でもある。
そこから更に奥へと歩を進めてみると、高い生垣が途切れる代わり、鉄製の扉を新たにひとつ見つけることが出来た。恐らく、ここが裏口にあたるのだろう。
どうにかして屋敷の中に入れないものかと、鉄格子の隙間から建物の様子を覗きこもうとした、その時だった。

「……!」

視界に飛び込んできたのは、一糸纏わぬ姿で情事に耽る男女の乱れ切った姿であった。
先ほど仰ぎ見た二階と同じく、裸電球の揺れる薄暗い部屋の中で獣のように交わるその姿は実に凄絶で、幼い頭で思い描いていた生ぬるいセックスの妄想をいとも簡単に覆すほど荒々しい。
窓ガラスに手を突いた女が、放漫な乳房を律動に合わせながら大きく揺らしつつ、長い髪を振り乱す。薄く開いた唇からは、ひっきりなしに嬌声が零れているのであろう。その声がこちらに届くことはなかったが、代わりに彼女が手を突いた窓ガラスが、律動に合わせてガタガタと激しく音を立てていた。

「あ、あ……」

押し殺したような悲鳴を零しているのは、傍らに立ち尽くした幼馴染である。
大きな丸眼鏡の奥に隠れた愛らしい相貌は驚愕に見開かれ、その顔色は半ば青ざめているようにも見えた。
繋いだ掌も汗を含んでじっとりと湿り、互いの抱く戸惑いや焦燥を赤裸々に物語る。
どうしよう、逃げなければ。いつまでも彼女にこんな大人たちの姿を見せてはいけない。いけないのに――どうして。
足が竦んで、動かなかった。
その上、一刻も早くこの場から逃げ出したいと願う反面、視線は窓越しに乱れる女の裸体へと釘付けられたまま、どうしても逸らす事が出来ない。
捩れる腰、反り返る背中、そして軋む窓枠の音さえも淫靡に濡れて、屋敷中を妖しく彩る。
気が付けば僕は、勃起してしまっていた。
痛いほどに勃ち上がったそれは、下着とスラックスをはしたなく押し上げ、混乱の最中に取り残されたままでいる僕の意志に反して興奮の兆しを隠そうともしない。

「……っ」

駄目だ、このままでは自分の浅ましい欲望も暴かれてしまう。
劣情に呑み込まれかけた頭を左右に激しく振り、ようやく自我を取り戻した僕は改めて幼馴染の掌を強く握りしめると、強引に彼女の手を引き、有無を言わせずその場から駆け出した。
相変わらず帰り道は分からないままだったが、とにかく、僕は走り続けた。
少しでもあの洋館から離れたくて、目撃した情事の名残が振り払いたくて、熱を忘れたくて、無我夢中になり走り続けた。
――どれくらい、走り続けていたのだろうか。
世界が完全なる夕闇に包まれる頃、僕たちはいつの間にか見慣れた住宅地へと足を踏み入れていたらしい。
見覚えのある商店や民家、郵便ポストに看板。それらが視界に飛び込んできた瞬間、安堵のあまり力の抜けた膝がガクリと折れた。

「だ、大丈夫?」

アスファルトに膝をつき、肩で呼吸を繰り返す僕を覗きこんできた幼馴染の表情は、幾分か落ち着きを取り戻しているのか存外にも狼狽の色は薄らいでおり、青ざめていたはずの頬も今では出鱈目に走り続けたせいかむしろ紅が差すほどだった。

「……う、うん。ちょっと、ビックリしただけ」

彼女に支えられながら僕はどうにか再び立ち上がると、とりあえず帰ってこられて良かったねと乾いた笑い声を無理やり喉の奥から絞り出す。
あれは冗談のような出来事だったのだと、笑い飛ばさなければ何かが壊れてしまうような気がしたのだ。
それから僕たちは別れの挨拶を交わしたあと帰路につき、門限を少しばかり過ぎてはいたもののどうにか自宅へたどり着くことが出来た。
母親が門限を破った僕に小言をいくつかぶつけてきたが、言うまでもなく今の僕は親の叱責に耳を貸せるような精神状態ではない。
具合が悪いからといって夕食も入浴も拒み、ほとんど逃げるようにしてそのまま自室へと慌ただしく駆け込む。
自らの視界を遮断するように頭から布団を被ってみたのだが、閉ざされた暗闇の中、やけにくっきりと例の光景が眼前に浮かび上がり、壊れたビデオテープのようにそれは何度も再生を繰り返した。
揺れる裸電球、軋む窓枠、揺れるガラスに豊満な女の乳房。
耳にした覚えはないのに、どうしてだか女の嬌声まで鼓膜の中で狂ったようにこだまする。
気持ちが悪い。不快感が喉の奥からこみ上げて、今にもすべてを吐き出してしまいそうだった。
だが、そんな気持ちとは裏腹に、どうしてだか僕は再び勃起してしまっている。
痛いほどに張り詰めたそこは、網膜に焼き付いた女の乳房が揺れるたびに硬度を増して、猛っていく。
気持ちが悪くて仕方がないのに、愚かな肉体は熱を持って興奮を示す。そんな自分の身体さえ気色悪くて、悔しさのあまり涙まで零れた。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!
心で何度も叫びながら、こびりついた情事の残滓を必死で拭い去ろうと頭を振る。
しかし、振り払おうとすればするほど記憶の中の女は激しく乱れ、誘うように腰をうねらせ続ける始末であった。

「……ッ、くそ……!」

そしてこの悪夢は、未だ克服出来ない心的外傷となって僕の胸に深く刻み込まれている。



泥の中からゆっくりと、引きずり出されるかのような目覚めだった。
ああ、久しぶりにあの日の夢に魘されていたのかと僕はため息をひとつ零すと、ゆっくりと身体を起こし、耳元で騒ぎ続けているアラームのスイッチをオフへと切り替える。
あれから三年の月日が流れたにも関わらず、未だ鮮明に瞼の裏へと焼き付いたまま色あせる事のない悪夢のような光景は、最近では頻度は少なくなってきたものの、こうしてたびたび夢の中にまで現れては僕を酷く落ち込ませるのだ。
悪夢へと誘ったベッドから逃れるようにして抜け出すと、平和な日常を求めて制服に袖を通し、身なりを整え、朝食もまともにとらないまま、僕は玄関の扉を押し開けた。
先ほどまでの悪夢が信じられない程に澄んだ青空を目の当たりにして、ようやく気分が少しばかり晴れやかになる。
曰く、どのようなトラウマを抱えたとしても、人間という生き物はいつかその痛みを忘れ、遂にはそれを克服するらしい。
言われてみれば、確かにそうだ。どんなに嫌なことがあったとしても、それを五十年先まで明確に記憶し続けるなんて、脳の構造的に難しい。
それに、日常は積み重ねられていくものだ。もっと嫌な経験もあるだろう、嬉しい体験もするだろう。そういった新たな時間に押し流され、過去というものはどんどん遠ざかり、やがては消える――。
僕の抱えるトラウマも、いつか思い出す事もなくなるだろうと今は信じるしかなかった。

「あっ、良太君」

と、その時である。
玄関先で、僕を呼び止める優しい声と唐突にはち会った。

「ああ、藍子。おはよう」

同じく登校途中であったらしい声の主――藍子は、清々しい朝の雰囲気によく馴染むふわりとした微笑で僕を出迎えてくれた。
丸眼鏡の奥に隠れた瞳はどこまでも愛らしく、二つに結ばれた柔からな髪は朝陽を受けてより一層、艶やかに煌めいて眩しいほどである。
そして、そのあどけない顔立ちは幼い頃とほとんど変わらず留まり続けていたのだが、体つきはそれに釣り合わず随分と魅惑的な成長を遂げていた。
優し気な表情、そして幼い顔つき、小柄な体躯。しかしそこから匂い立つ奇妙な色香は、果たしてどこで身につけたというのだろう。
余計な詮索をしそうになったが、ふと今朝がた見た夢のことを思い出してしまった僕はそれを振り払うようにわざと明るく笑うと、彼女と肩を並べ、通いなれた道を歩き始めた。
さいころから家が隣同士の幼馴染であり、小学校、中学校、そして何の因果か、高校も同じ進学先を選んでいた為、彼女とは随分長い付き合いになる。
なにを隠そう、共に屋敷の情事を目撃してしまった例の幼馴染は彼女なのだ。
だが、あれ以来――僕も、そして藍子も、あのとき見た光景を蒸し返すような真似はしなかった。
男である僕の方からあの時の話を持ち掛けるなど、あまりにもデリカシーに欠けていたし、そもそもこちらとしてもあの日に目撃した光景は、一刻も早く消去してしまいたい記憶の一つなのだ。彼女から切り出した場合は別として、わざわざ掘り返す必要は今のところない。
出来ればこのまま、なかった事として永遠に蓋をしておきたかった。

「良太君、夏休みはどうするの?」

肩を並べて歩いていた藍子が、数日後にやって来る夏季休暇の予定をふと尋ねてくる。
生憎と僕は帰宅部なので夏休みに学校や合宿へ出掛ける機会もないし、今のところこれといった明確な予定はない。
気が向いたときにアルバイトをして小銭を稼ぎ、たまに友人と遊びに行くくらいだろうか。
義務教育時代と大差ない夏休みを過ごす事になりそうだと僕は苦笑いを浮かべつつ、そういう藍子は何か予定があるのかと尋ね返してみた。
すると彼女は、少し照れくさそうな笑みを浮かべながら、

「うん、私は毎日行かなきゃいけない場所があるの」

夏休みの大半はきっとそこで過ごす事になると、どこか嬉しさを滲ませて語る彼女を愛らしく思う反面、今年の夏休みは二人で会える機会はなさそうだなと非常に残念な思いになる。
きっと勉強熱心な藍子のことだ、通っている塾の夏期講習だとかが忙しいのだろう。まだ高校に入学したばかりとはいえ、良い大学を志す者は一年生の頃から勉強漬けになると聞く。
中学生の頃も、共に下校する機会が滅多に訪れなかった理由は恐らくそれだ。
毎日のように登下校を共にしていた彼女と徐々に顔を合わせる事が少なくなってしまった現状を僕はとても残念に思っていたが、致し方がない。彼女も、そしていつかは僕も、大人になっていくのだ。

「……そっか、毎日通わなきゃいけないなんて大変だね。でも、頑張ってね」

僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑いながらこくりと小さく頷いてみせる。

「でもね、全然大変じゃないから平気だよ。むしろ、夏休みが楽しみなくらいなの」

浮かべられた笑顔は朝露に濡れる朝顔のように美しく艶やかで、胸をひどく高鳴らせる。
しかしこの時、僕はまだ気づいていなかった。
彼女が浮かべた可憐な微笑が、狂気に塗れていたことを。



友人とゲームセンター前で別れた僕は、茜色に染まる空の下、人通りの少ない路地裏を歩いていた。
夏の夕暮れは、冬のそれと違ってどこか胸が躍る。恐らく祭りや花火など、夜に楽しむ催し物が多々控えているせいだろう。一日が終わってしまうという侘しさよりも、これから楽しいひと時が始まる期待感の方がどちらかと言えば強かった。
夏季休暇を控えた学生であれば尚更のことであったのだが、僕にとって夏の夕暮れ時というものは、過去の苦い体験を想起させる嫌な時間帯でもある。
今朝がた、久々に悪夢を見たせいだろうか――。知らず知らずのうち、足が例の屋敷の方角へ向いてしまっていたらしい。
未だ鮮明に記憶の中へ留まっている静かな路地と、眠ったように聳える静かな洋館。
その光景が今、昔と変わらぬ姿で僕の目の前に広がっていた。
相変わらず、正面からは人の気配は窺えない。そして三年経った今も正門は固く閉ざされたまま、招かれざる訪問者の侵入を決して許そうとしなかった。
では、裏手の方はどうだろうか。
あの時も、そうだった。
生垣に沿って、屋敷の奥へ。しばらく歩くと、二階の窓が見えてくる。
ゆらゆらと揺れる、裸電球。ゆっくりと屋敷の呼吸に合わせて揺れる不気味な灯り、それもあの頃と変わらない。
それから、途切れた生垣の隙間から覗く凄絶な――。

「……っ」

もしかして僕は、再び夢の中に迷い込んでしまったのだろうか。それとも、あの頃に時間が巻き戻っているのか。

「なんだよ、ここ……!」

脳裏にこびりついていた記憶が、あろうことか眼前でぶり返す。
まるで何度も繰り返す悪夢のように、いま僕が覗いている屋敷の中でも見知らぬ男女が激しい情交に耽っていたのだ。
一糸纏わぬ女が窓ガラスに手をついて、髪を振り乱しながら喉を逸らす。ガタガタと枠が軋む音は、恐らく男が与える律動と同じリズムなのだろう。
なんなんだ、この屋敷は。まさかこんな事が毎日ここで繰り返されているというのだろうか。
こみ上げる恐怖と、絶望。吐き気。足が竦み、動けない。
せめて視線を逸らしたいのに、僕は身をくねらせ続けている女の裸体に釘付けられたまま、ただその場に立ち尽くしていた。

「あれ……」

絡み合う男女の向こう側に、更なる人影が蠢いていることに気が付いた。
まさかと思いよく目を凝らしてみると、幾人もの裸のシルエットが絡み合い、まぐわり合う光景を目の当たりにしてしまう。
この屋敷は、一体どうなっているのだろう。何故、複数の男女が同室で情交にひたすら耽り続けているのか。それも何年も前から、ずっと。
どれだけの人数がそこに居るのか、ここからでは判別する事が難しかったが、女性だけでも恐らく四、五人はいるだろう。男も複数人いるようだが、その全貌は今のところ分からない。
と、その時である。
窓際でまぐわっていた女の方がふと後ろを振り返り、男とつながったまま手招きをしてみせた。

「……!」

記憶の中にこびりついた悪夢を越える光景が、そこに在った。

「どうして……」

裸の女に招かれ、新たに姿を現したのは、見慣れた丸眼鏡の少女。
彼女は自らの衣服をなんの躊躇もなく脱ぎ捨てると、男たちと向き合い――花弁のように色づいた唇を、男たちへ差し出したのだ。
やせ細った男、肥満気味の男、体格の良い男。様々な容姿の異性にたちまち取り囲まれてしまったその少女は、そんな己の現況に別段恐怖を感じている様子もない。
むしろ、唇を重ねた相手の首に細い腕を回し、更なる繋がりを求めるようにして何度も角度を変えながら濃厚な口付けを繰り返している。

「藍子……っ」

あの時は僕の隣で同じように震えていた彼女がどうして、向こう側に行ってしまったのか。
嘘だ、これは性質の悪い冗談に違いない。悪夢の続きなんだ。現実であるはずがない!
脱ぎ落されたブラウスの下から現れたあまりにも誘惑的な下着姿に視線を釘付けられたまま、僕は声にならない叫びを胸中にて吐き捨てていた。
が、残酷な光景は僕の現実逃避を足蹴にするかの如く、より凄惨な場面を無情にも垂れ流していく。
唇を重ねたまま、藍子は随分と手慣れた様子で男の衣服も寛げてしまうと、むき出しにされたペニスに指を絡め、ゆっくりと扱き始めたのだ。もう一方の手でも別の男が差し出した雄を掴み、同じように愛撫を施している。
今朝、肩を並べて登校していた時に向けられたあの控えめで可憐な笑顔はどこへ消えたというのか。
恍惚とした表情を浮かべながら男たちの熱を慰め、そして自らも快楽を享受するその姿は信じられないほどに淫靡で、売女のようにはしたなかった。

「……また大きくなったんじゃないか?」

薄い窓ガラス越しに、詰るような男の声が小さく漏れ聞こえてくる。どうやら、藍子の背後に回り下着の上から彼女の乳房を揉みしだいている男の発した台詞らしい。
それに対して彼女はというと、どこかむず痒そうに身を捩りながらこくりと小さく頷いてみせた。

「ブラのサイズ、幾つになったの?」
「……い、Eです」
「随分と大きくなったもんだ。もしかすると、俺たちのお陰かもな」

言いながら男が、とうとう彼女の下着の中へとその掌を差し入れる。
まるでその豊満な乳房の大きさと柔らかな感触をじっくりと味わうような手つきが、より一層、淫らな女体を引き立てるようだった。

「あ、ふ……」

這い回る指の感触が堪らないといった様子で彼女はその身を更に激しくくねらせ、より激しい愛撫を促すように自らの小さな掌を男の手にそっと重ねて軽く爪を立ててみせた。
やがて男たちに押し流されるようにして、今度は彼女が例の窓辺にもたれかかり、その痴態を僕の眼前にて赤裸々に晒し始める。
ほとんど下着としての役目を放棄していたブラジャーを、彼女はもどかしそうに脱ぎ落とし、その豊満な乳房を見知らぬ男たちに、そして僕に、惜しげもなく披露をした。
控えめな彼女の性格と見た目に似つかわしくない、あまりにも主張の強い二つの膨らみを初めて目の当たりにした僕は、熱を上げて興奮の兆しを見せ始める自らの下肢と大きく反比例するような冷たい落胆を強く覚え、いよいよ目の前の少女が本当に幼馴染の藍子であるのかどうか、わからなくなる。
まるで男を誘惑する為だけに生まれ落ちたかのような、あまりにも煽情的過ぎるその裸体を前に、こうして慄くことしか出来ない僕の方が狂人なのだろうか――。
自分の意志ではコントロール出来ない陰茎ばかりが大きく膨らむ男の性を恨めしく思いながら、相変わらず僕はそこに立ち尽くしたまま、長年見続けた悪夢をも凌駕する生々しい光景から視線を逸らす事が出来ずにいた。

「相変わらず、藍子ちゃんは上手いなあ」

いつしか彼女は自らの乳房で男たちのペニスを挟み込み、その狭間で欲望の茎を育て上げながら亀頭に顔を埋めていた。
グロテスクな異物に舌を這わせ、吸い付き、小さな口いっぱいに咥えて頬張る。

「藍子ちゃんは勉強熱心ないい子だね」
「ン、嬉しい、です……」

赤らんだ横顔が、その言葉通り心底嬉しそうに綻んだのを見て、僕は更なる絶望の淵へと落とされた。
もし、誰かに強制されてこういった情事を行わざるを得ないという状況であれば、まだ納得が出来ただろう。それに、救いの手を差し伸べる事だって可能だった。
――けど、彼女はそうじゃない。
恐らくは自分の意志で、自ら望んで劣情にまみれているのだ。慰み者となる事を喜んで受け入れて、はしたない詰りの言葉すら享受して、快楽に溺れているのだ。

「あ、ふ……ッ」

彼女の口元で、熱がはじけた。
ごくり、と白い喉が動く。まさか、口腔内で受け止めたそれを呑み込んでしまったのだろうか。
その上、汚れた唇をそのまま拭おうともしない。

「ン、美味しいです……」

それどころか、更なる喜悦を浮かべる頬がとろけるように綻んだ。

「精液、好きぃ……。もっと、ください」

細く小さな顎から白濁を滴らせたまま、更なる精液を求めて彼女は唇を開き、己の口腔や両掌、更には乳頭を擦り付けてまで周囲の男たちを全身で誘惑し、絶頂へと駆り立てていく。

「っ、また出るよ、藍子ちゃん」
「今度はおくちじゃなくて、体にかけてあげようね」

浴びるような量の精液で白い肌はたちまち穢され、しかしそれだけでは飽き足りないのか、恍惚とした表情を浮かべた彼女は自らの頬や乳房の狭間を伝う精液を指先で掬い取ると、その残滓さえ口に含んで男たちの吐き出した子種を体内で味わい、悦に浸る。
そしてとうとう彼女は窓ガラスに手を突き、己の腰を背後の男たちへと突き出してみせたのだ。
瞬間、再び瞼の裏に今朝の悪夢がよみがえる。
雌犬のように腰を振って雄を受け入れていた見知らぬ女の姿と、よく見知った幼馴染の姿がぴたりと重なり、思い出ごとすり替えられていく――。

「ください、おチンチン……。もう、我慢できないんです……!」

ほとんど叫ぶようにしてそう強請った彼女の表情は、その原型を留めぬほど淫らに崩れていた。

「ンあっ、あああッ」

ひと際高い嬌声が、窓ガラスをびりびりと震わせながら僕の鼓膜を劈いた。
藍子の背後から覆いかぶさった男が彼女の腰を無遠慮に掴んだまま、ゆっくりとその腰を進めていく。
差し出された彼女の臀部――否、恐らく性器が口を開けているであろうその場所目掛けて赤黒く太い幹が徐々に沈んでいく様子を、生垣の外からでもはっきりと目撃してしまう。
抗うどころか、恍惚の顔でグロテスクな雄を迎え入れる彼女は受け身であるにも関わらず、むしろ自ら男たちを捕食でもしているような趣さえ窺えた。
そんな女郎蜘蛛じみた幼馴染の淫靡な姿を目の当たりにしてしまった僕の両脚はいよいよ大きく震え始め、繰り広げられるその痴態に、もはや畏怖すら覚え始める。
男のペニスがそれほど時間を掛けず根元まですっかり埋まってしまうのを見届けた後、凄まじい吐き気に襲われると同時、僕はかつてない焦燥に駆られていた。
それは、雄を受け入れた彼女の反応に、初心さの欠片も感じられなかったせいである。そして何より驚いたのは、彼女が肉棒を突き入れられても何の苦痛も感じていないといった点だ。
レイプ、とまではいかないが、彼女へと挿入した男の仕草はひどく本能的で、性経験に乏しい少女を気遣うような殊勝さは微塵もないように思えた。
だが、そんな扱いを受けても彼女は苦悶を浮かべるどころか乱暴に膣内を掻き回される事に対して悦びすら感じている。
――嫌だ、やめてくれ。
声にならない叫びが、心の中で反響を繰り返す。

「藍子ちゃんのは相変わらず小さくてキツキツだね」

さすが若い女の子だと嘲るように笑う男。
その口ぶりから恐らくは何度も藍子に挿入した経験があるのだろうと推測できたが、僕の胸の内は、そして脳は、それを現実として受け入れることを頑なに拒んでいた。
――嫌だ、やめてくれ……。
自らの膣内にて激しい律動を繰り返しているペニスだけでは満足できないのか、やがて彼女は先ほどと同様に唇、右手、左手と、体の至る所を使って差し出される陰茎を始める。
再び喉奥まで勃起したそれを容赦なく突き入れられて、きっと本当は苦しいはずだ。口腔内から亀頭を強く押し付けているのか、頬は大きく膨らむほどに形が変わってしまっている。
掌もすっかり精液にまみれているせいか、律動に合わせて扱くその指先はぬるぬると滑り、何度も彼女の手から勃起した陰茎たちは逃れてしまうも、そのたびに腕を伸ばして再度握りこむ姿はもはや性欲に取り憑かれているとしか言いようのない有様だった。

「ほら藍子ちゃん、もっと腰振って」

口淫や手淫に耽るのも良いが、肝心のセックスをおざなりにしないでくれと窘められた彼女は今度、背後へと突き出した腰を大いにくねらせ、ほとんど捕食するかのように咥え込んだペニスをより深い場所へと誘い込む。

「……っ」

律動に合わせて、どうしてだか僕のペニスもどくりどくりと脈を打ち、彼女が発情期の猫のような嬌声をあげるたび、そしてその舌先が男たちの亀頭をいやらしく吸い上げるたび、悦ぶようにビクリと跳ね上がってしまう。
まさか、獣のように彼女を貪る男たちの姿を自分に置き換えて楽しんでいるのだろうか、僕は。否、意志とは切り離された僕の劣情は。
痴態を目の前に悦ぶ身体と絶望する心が剥離する。

「ほら、出すよ!」

背後の男が叫ぶようにそう宣言した瞬間、彼女は肉棒を口いっぱいに咥えたままのその顔にとてつもない喜悦を浮かべ、対する僕は限界まで膨れ上がった己の熱を持て余しながら、涙で滲み始めた視界の向こう側、絶頂を求めてより激しく欲をぶつけ合う男女の姿をただ見守る事しか出来ずにいる。
そして男は破裂音が響くほどに激しい律動を刻みながら、更に追い打ちをかけるような言葉を藍子に向かって吐き出したのだ。

「また妊娠させちゃったらごめんね。でも藍子ちゃん、中出しじゃないと満足できないもんね?」

……また?
聞き間違えでなければ、男は「また」と言った。
過去に彼女は妊娠した経験があるという事だろうか。しかし、妊娠期間は十月十日と言われているにも関わらず、彼女が長期的に休学をした事はなかったし、そもそも出産ともなれば母親伝いに何らかの情報が僕の耳にも入ってくるはずだ。
つまり藍子は、堕胎まで経験しているというのか。
残酷な事実に、とうとう鼻腔の奥がツンと痛むほどの涙が溢れた為に視界は今やひどく滲み、もはや目に映っているのはぼんやりとした情交のシルエットのみである。

「あああッ、もうだめ……。イク、おまんこイッちゃう……!」

彼女がそう叫んだ瞬間、滲む視界の向こう側で男が高く腰を突き上げるのに合わせてしなやかな女体が弧を描く。
あれほど激しかった律動が途端に止み、二人は互いの腰を繋げたまま、気だるげに余韻を楽しんでいた。
ああ、膣内に射精されてしまったのか――。
ぼんやりと残酷な事実を認識した瞬間、絶望に苛まれる胸の内とは裏腹に張り詰めていたペニスが大きく弾け、下着の中でどろりと精子を吐き出した。

「あ、あ……」

ようやく喉の奥から絞り出した悲鳴は小さく掠れ、悲しみに震えながらもどこか熱っぽい。
そして性質が悪いことに望まぬ劣情は未だ僕の中に留まり続けていて、藍子の揺れる乳房や細い腰をその視界に映すたび、またしても新たな奔流を熱く睾丸の中で渦巻き始めたのだった。

「じゃあ、今度はお尻にしようか」

余韻冷めやらぬ中、先程まで手淫を味わっていた男が今度は彼女の背後へと回って突き出されたままの小さな臀部を撫でまわしつつ、悪魔のような提案を持ちかける。

「藍子ちゃん、お尻も大好きだもんね」
「は、はい……っ、お尻も好きです、気持ち良いです……!」

膣内から零れたらしい精液が白い太腿へと伝い落ちても尚、まだ子種を飲み足りないとねだりながら彼女はその腰を激しくくねらせ、自らの背後に回った男のペニスを恥も外聞もなく欲していた。
これ以上、幼馴染の痴態を見ていたくない。
そう心は叫んでいるのに、相変わらず足は竦んだまま、動けなかった。そして達したばかりの陰茎もまた、再びむくむくと頭を擡げ始めている。
ぐっしょりと濡れた下着がまとわりついて、不愉快だった。なのに、どうして僕は懲りずに勃起を繰り返しているのだろう。
歯止めが効かない興奮に下肢を蝕まれながら、途方に暮れたような気分に陥ってしまった。
せめて視線を逸らすことが出来れば、耳を塞ぐことが出来れば、これ以上、絶望も欲情もしなくて済むはずなのに、どうして身体が動かないんだろう。
しかし、ここに留まっている限り、悪夢から目覚めることはない。

「ああッ、お尻……っ、入ってくる……!」

まず、先程とは別の男が再度藍子の性器に肉棒を今度は正面から掬い上げるように突き入れる。続けざま、今度は背後に現れた男が彼女の性器ではなく、排泄器官に男の赤黒いペニスがずぶずぶと容赦なく沈めていった。
前後から男に蹂躙される華奢な彼女の肉体は、先程とはうって変わって肉食獣に弄ばれるか弱き小動物のようにも見え、より悲痛さが増す。
直腸を陰茎で蹂躙されるなど、想像するだけでおぞましかった。
しかし彼女は相変わらず恍惚とした表情を浮かべながら、むしろ貪欲にその内側へ男の肉棒を咥え込もうと一心不乱に腰を振り続け、体内に精液を注ぎ込んでくれとむせび泣く。

「ああン、っ……アアア、あ!」

突かれるたびに、彼女は哭いた。そして腹の中に吐精されるたび、彼女は歓喜に腰を震わせた。
そして僕のペニスもそんな藍子の痴態を悦ぶかのように何度も勃ち上がり、熱を持ち、狂ったように下着の中へ性器を吐き出し続けていた。
一度も触れることなく射精を繰り返す陰茎は、もはや完全に僕の意志とは切り離された独立器官のように言う事を聞かない。

「んんッ、あったかいの……。いっぱい……!」

子宮に、そして直腸に射精される感覚が堪らないといった様子の彼女は至る所から男たちが吐き出した精液を滴らせ、しかし未だ満足することなく腰を捩っては嬌声をあげ、もっと欲しいと狂ったように情交をねだる。 
どれくらいその場に立ち尽くしていたのだろうか。
目の前で繰り広げられる狂宴は未だ幕を下ろす気配もなく、それどころかますますの熱を帯びて彼女は様々な男たちと交わり、その内外で精液を受け止め続けている。
普段はふわりと風に揺れている柔らかそうな髪も精液に塗れてぐっしょりと濡れそぼり、その毛先からはとめどなく白濁が滴っている。
そして性器と肛門からも受け止めきれなかった精子がボタボタと大量に垂れ落ちて、情事の激しさと異常さを物語っていた。
――と、その時。恍惚に溶けていたはずの彼女の瞳が、ふとこちらに向けられたのだ。

「あ……!」

未だその性器に肉棒を突き入れたままの姿だが、僕の姿を認識したらしい彼女はほんの一瞬、その瞳を驚きに丸めて自我を取り戻したかのように見えた。
だが、しかし。表情は再び悦楽によってどろりと溶け、遊女のような媚びた微笑へとすり替わる。
――良太君も、まざらない?
読唇術の心得があるわけでもないのに、小さく開かれた彼女の唇が紡いだ言葉を、何故だか僕はハッキリと読み取ることが出来てしまった。
僕に、加われというのか。あの悪夢の中に、足を踏み入れろと誘っているのだろうか。
瞬間、僕は何度目か分からない絶頂を迎え再び下着の中をぐっしょりと汚してしまったが、藍子に存在を認識された途端に体内でくすぶっていた熱が急激に冷めて、とてつもない絶望に呑み込まれた。
忘れがたい悪夢に引きずり込まれてしまった彼女には、もう二度と触れられない。触れてしまったら最後、恐らく僕は悪夢に捕らえられてしまうだろう。
……それだけは、嫌だった。

「くそっ……!」

涙が頬を伝い落ちたその瞬間、呪縛が解けたかのように僕の身体は動き出した。
誘惑の視線を向ける彼女に背を向けると、生垣沿いを走り抜けて僕は路地裏へと飛び出した。
そのまま夕暮れの街を駆け、どうしてこうなってしまったのかと問答を続けながら家路を急ぐ。
なぜ、彼女は悪夢の中へと堕ちてしまったのか。
なぜ、僕をも悪夢の中へ引きずり込もうと微笑んだのか。
あの頃の思い出をトラウマとして抱え続けていたのは僕だけなのか、傷ついていたのは僕だけなのか、逃げ出した僕の方が異常者なのか――。
涙が溢れ零れる度、胸の内へと問答が押し寄せ、しかし何ひとつ答えを見いだせないまま、容赦なく日は暮れていく。
あの屋敷に取り残された彼女は今後、どのような末路を辿るのだろう。
しかし、気がかりではあったもののその先を想像するのが辛くて、僕は濡れた頬をTシャツの裾で必死に拭いながら、淫らに溶けた彼女の顔を必死に忘れようと残酷にも想いを寄せていた幼馴染の存在を脳内にて黒く塗りつぶしていたのであった。






ずっと、ドキドキが止まらなかった。
部屋の灯りを消して、ベッドに潜り込んでからも尚、ガラス越しに見たあの光景が頭から離れない。
裸の男女が絡み合う姿は、私にとてつもない衝撃を与えると同時、今までに味わったことのない、いやらしい興奮を与えてくれた。
揺れる乳房を揉みしだく武骨な男の人の掌を、とても羨ましいと思ってしまったのだ。
私はベッドの中で熱を持て余した身体を丸め、しばらく胸の高鳴りにただ耳を澄ませていたが、何度も頭の中であの光景を再生するうち、下腹のあたりがズクズクと疼き始めて眠気は完全に失われた。
尿意があるわけでもないのに、どうして下着が濡れてしまったのだろう。そして、触れているわけでもないのに、性器がびくびくと震え始めたのはどうしてだろう――。
逡巡の後、私はパジャマの上から手を伸ばし、疼きの正体を見極めようと布越しに濡れそぼる性器をそっと撫でてみる。

「ン、っ」

触れた瞬間、つま先が跳ね上がるほどの電流が駆け上がってきた。

「あ、ん……」

そこを指の腹で軽く擦るたび、どうしようもない疼きが更に肥大して、私のお腹中へと広がっていく。
すごく、気持ちが良かった。
下着の中がどうなっているのかを確かめる勇気はなかったけれど、布を隔てているにも関わらず指先がいつの間にかぐっしょりと濡れてしまっているということは、もしかすると後でショーツを取り換える必要が出てくるかもしれない。
だけど、性器への刺激に取り憑かれてしまった私の指はもう止められなかった。

「あ、あ……ッ」

より激しく、より大胆に下着越しのそこを摩擦する。
腹の底からこみ上げてくるこの不思議な感覚はなんだろう。気持ち良くて、少しだけ切なくて、もっともっと溺れてみたくて、無我夢中で私は性器を愛撫し続けた。

「あァっ、ンン!」

シーツの端を噛んで大きく零れそうになった嬌声をどうにか堪えつつ、突然痙攣を始めた下肢をどうする事も出来ずにベッドの中で何度ものたうち回り、激しい悦楽の波に身悶えてしまう。

「はあ、っ……。あ、ん……」

その強烈な感覚が〝絶頂〟であると気付くことが出来たのは、もうしばらく後の事だった。
そして、これ以上の快楽を味わう方法があるという事を知ったのも――。



それから一年後、私たちは中学生になった。
良太君は、あの夏の日に見た光景の事をまるで覚えていないのか、話を蒸し返したことは一度もなかった。
私の方からもどうしてだか切り出せず、忘れてしまったのであればまあ良いかとそれ以上は踏み込めなかったけれど――でも、相変わらず私は毎晩あの時の事を思い出しては自らを慰めていたのだ。
良太君はどうなんだろうか。同じ気持ちでいてくれたら嬉しいのだけれど、と思いつつも、やはり口に出して尋ねる事が憚られてしまうのはどうしてだろう。
きっと私は心の奥底で、あれはとてもイケナイことなのだと知っていたのかもしれない。いけないと知っていたからこそ、こんなにもドキドキしていたのかもしれなかった。

「あ、ん……」

そして今夜も、下着の上から自らの性器に摩擦を与えて、私は快楽に耽っていた。
初めのうちはパジャマ越しに触れていたそこも、今では更にその奥、ショーツ越しに濡れた感触を楽しむまでに発展していたのだが、近頃はそれでも物足りなさを感じてしまい、絶頂を迎えはするものの欠けた〝なにか〟を突き止めることが出来ないまま、悶々とした夜を過ごし続けている。
一体、これ以上なにが欲しいのだろう。
濡れそぼる性器と、そして最近発見したのだが、硬くしこった陰核を指の腹でなぞればぞくぞくするような快楽をいつでも手にすることが出来るというのに、自慰に耽れば耽るほど飢餓感が増していくようで、私は熱を持て余していた。

「ン、やだ……。もっと、欲しいのに……!」

物足りない。だが、どうすれば良いのか分からなかった。

「どうして……」

あの日、目撃した女の人のように激しく乱れてみたいのに。
そう強く願ったその時、ふと思った。
またあの屋敷に行ってみよう。そうすれば、もっともっと気持ち良くなれる方法が分かるかもしれない。
思いついた途端、鼓動が高鳴った。
そもそも私の劣情を駆り立てたのは、あの屋敷で絡み合う男女なのだ。あと時はすぐに逃げ出してしまったけど、今度はじっくりと覗いてみよう。
そうすれば、物足りない何かを見つけられるような、そんな気がしていた。



両親が不在の夜を狙って、私は家を抜け出した。
果たしてあの屋敷内では今もあの狂宴が続けられているのかどうか――定かではなかったものの、体の中でくすぶり続けている熱や悶々とした感覚を拭い去る為には、もう一度彼ら、彼女らの獣じみた性交を目撃しなければならない。そう確信していた。
夏の日の記憶を辿って、人気のない夜道を行く。
街灯もまばらな通りは不気味ささえも感じぬほどの静けさに満たされていて、聞こえるのは私自身の足音と、微かな虫の鳴き声くらいのものだった。
日常から切り取られてしまったような、不思議な路地。
ここから先に進めば進むほど、まるで現実から遠ざかり夢の中へと足を踏み入れていくような、奇妙な感覚にとらわれる。

「あ……」

ふわふわと、どこか浮ついたような足取りで歩み続けたその先に、とうとう例の洋館が見えてきた。
相変わらず重厚に、そして眠っているかのように静かに佇んでいるその屋敷内で、幾つかの小さな灯りが窓越しに揺れていた。
あの揺れる灯りには、見覚えがある。
初めてここへ訪れた時、乱交現場の真上の階でゆらゆらと時を刻む振り子のように揺らめいていた小さな光。
それを改めて目撃した瞬間、私の鼓動は熱く高鳴った。
音をなるべく立てないように注意を払いながら、しかしどこか急いた足取りで生垣沿いに屋敷の裏手へと回り、丁度その生垣が途切れる場所へとその身を潜めながらいつの日かと同じように内部の様子を窺ってみる。
そこには、あの頃と同じ光景が――否、あの頃よりもずっとずっと刺激的な光景が、そこには広がっていた。

「あああッ、ンあああ……!」

咆哮のような嬌声と共に髪を振り乱しながら、若い女が背後から筋肉質な男に穿たれ、身悶えている。
女の豊満な肉体を撫でまわす掌は暗闇の中から幾つも伸びていて、一糸纏わぬ女体を思うがままに弄り続けていた。

「もっと、気持ち良くして、もっと……!」

よくよく目を凝らしてみると、どうやら異性の手だけではなく、滑らかな同性の指先も精液に塗れながら狂乱する女の肌を辱めていることに気が付いた。
律動に弄ばれる彼女の乳房を男たちと同じように揉みしだき、時には舌先で愛撫するその姿は、私にとてつもない衝撃を与えてくれたのだった。
複数の男女が相手を選ばず本能のまま絡み合う姿も非常に背徳的だったけれど、同性同士という禁忌を犯して求め合う情事はなんだか神秘的な儀式のようにも思えて、それでいて乱れ狂う様はあまりにいやらしくて〝イケナイコト〟への特別感がとても増したような気がした。
この素晴らしい光景を、目に焼き付けておかなければ――。
そしてその記憶が色褪せないうちに急いで帰宅をして、自慰に耽ろう。きっと、いつもより気持ち良くなれるはずだから。

「あ、は……ッ、んんん!」

予想した通り、帰宅するなり潜り込んだベッドの中で下着越しに触れた性器はすでにぐっしょりと洪水を起こしていて、指先で微かに触れただけで、痺れるような快楽が爪先から駆け上がる。

「きもち、い……。ああッ、きもちいい……!」

堪え切れぬ嬌声と共に陰核を指の腹で強く擦ると、全身が震えた。
ああ、ここを指で擦るだけじゃなくて、艶めかしい舌先で舐めてもらえたらどれほど気持ち良いのだろうと夢想しながら、私は無我夢中でそこに刺激を与え続け、繰り返し何度も絶頂を迎えてはより過激な妄想へと耽っていく。

「もっと、もっと欲しい……っ」

それからというもの、両親が不在のたびに私は自宅を抜け出して、あの屋敷を覗きに行くようになってしまった。
どうやらあの洋館では毎夜乱交が行われているらしく、時間や曜日を問わず、覗きに行けば必ずあの小さな灯りが揺れ続ける室内で見知らぬ男女が本能のままに絡み合い、乱れ哭く姿を目撃する事が出来た。
幾日も覗き続けるうち、気が付いたことが数点ある。
男女比率は日によって異なるものの、基本的にはどうやら女性の方が多いらしい。故に、数の足りない男性たちは常に誰かしらへと自らの陰茎を挿入している状態にあるのだが、時には二人がかりで一人を攻め立てる事もあったりと、人数の偏りも気にせず自由にそれぞれ快楽を追求し合っているようだ。
時折存在する女性比率の高い日も同様に、一人の男性へと二、三名の女性が性器を差し出す光景もまれに窺えた。
そして男性側は若者から中年まで幅広い年齢層である事に比べると、女性陣たちは若者のみが集められているらしく、時には私と同じ学生なのだろう、制服姿の少女が淫らな乱交に加わる事もしばしばあった。

「あ、あっ……。んんッ」

秘密の情事を覗き見るうち、とうとう我慢が出来なくなった私は半ば日課と化した自慰を、自宅に戻ってからではなく窓の外から情事を盗み見ながら行うようになってしまっていた。
見知らぬ女が穿たれるのに合わせて下着越しに陰核を強く擦ると、まるで自分が犯されているような感覚に陥り、肉体のみならず心まで淫らに溶けることが出来たのだ。
やがて性器だけでなく、ブラジャーの中にまで手を差し入れ、乳頭への愛撫に耽るようになっていた。

「ン、ん……」

陰茎と同じように、硬くしこった乳頭を小刻みに擦ったり摘まんだりすると、とても気持ち良くなれるのだ。
情事を眺め見るうち、今まで知らなかった性感帯をひとつずつ暴かれていくようで、羞恥と喜びが綯い交ぜとなり、それすら新しい刺激となって私を夢中にさせていく。

「あ、もっと……!」

いつしか嬌声を我慢しなくなった。そして、覗き見る距離もどんどん近くなっていった。
もっと近くで、もっともっと、いやらしい姿を見せて欲しかったのだ。
そしてもう一つ、気付いたこと。
基本的に屋敷内で情事に耽っている面々は覗くたびに面子が変わっているようで、一体どれだけの人間がこの屋敷に出入りをしているのか、把握する事は出来なかった。
だが、しかし。その中で唯一、毎回のように目にすることが出来る女性がひとりだけ存在していたのだ。
艶やかな長い黒髪をなびかせながら、情事に耽る男女たちの間を思うがままにひらひらと行き来する妖しい蝶のような人。
その佇まいから、なんとなくではあるが、彼女がこの館の主ではないかという事実が窺える。
その場にいる誰よりも妖艶な表情と仕草で、不特定多数の人間から愛撫を享受してはその身をくねらせて善がるその姿は、淫らでありながらどこか芸術的で、その存在に気が付いてからは無意識のうちに彼女の事を視線で追うようになってしまっていた。
彼女は異性のみならず、同性に対しても積極的に愛撫を施しており、時には大胆に女性器へと舌先を突き入れ、そこから溢れる愛液を啜ったりとまるで御伽噺に登場する淫魔の如く、貪欲に快楽を与え、そして自らもあらゆる男女から施される刺激に酔いしれ、身悶えていた。
彼女の愛撫を受けた者たちが、男女問わずまるで白痴のような表情を浮かべて精液を、もしくは愛液を垂れ流す姿はあまりにも衝撃的だった。
あの形良い唇や、しなやかな指先で触れられたら私はどうなってしまうんだろう。どれだけ気持ち良くなれるのだろう……。

「あ、ンン……。んッ、ああっ」

自慰を施す指先に、思わず力が籠ってしまう。
いつしか私は、窓ガラス一枚を隔てた向こう側で情事を繰り返している男女の中に自分が加わわる事が出来たらという妄想に取り憑かれ、覗き行為も、そして自慰も、いけないと分かってはいたものの過激さを更に増していったのである。



中学二年生の夏。
私はいつものように両親不在の夜を見計らって家を抜け出し、屋敷へと赴いてその裏口から情事に耽る男女を至近距離から覗いていた。
陽が暮れたとはいえ、今日は特に蒸し暑い気候だった為か、自慰に耽る私のこめかみからもとめどなく汗が流れ落ちていく。
そんな茹だるような暑さにも構わず、今日も自慰に耽ってしまう。
例の〝蝶〟は、この日も様々な男女間をひらひらと行き来しては悦楽の花をそこかしこに咲かせ、淫らな蜜をあちこちから吸い取ったり、また自らも与えてみたりと自由気ままに情交を楽しんでいる様子であった。

「んっ、ん……ッ」

一人の男を女複数人で取り囲み、彼の舌や、指や、性器を奪い合うようにして群がるその様は、見ていてひどく興奮した。
捕食するように、男性器を食らう彼女たちの獰猛さが羨ましかったのだ。
この屋敷に通い続けて、どれくらいになるだろう。
そのうちに飽きてしまうだろうと高を括っていたのだが、どれだけ陰核を刺激しても、乳頭を擦っても、こみ上げる性欲は留まる事を知らなかった。
いつしか下着越しの感触にも慣れてしまい、数か月前からはとうとう自身の人差し指を、性器の中に沈めて掻き回さなければ達する事が出来なくなってしまっていた。
最初は躊躇いも、そして恐怖も感じていたが、慣れてしまえばどうという事もない。むしろ、蜜壺をぐちゃぐちゃとはしたなく掻き回すたび、下着越しの自慰では味わえなかったようなとてつもない頂きに辿り着くことが出来るのだ。もはや自身の小さく細い指先では物足りないほどに。

「……ねえ、アナタ」

と、その時だった。
一度たりとも開かれたことのなかったはずの窓が、ガタリと音を立てて開かれたのだ。

「……!」

夢と現を隔てる境界が今、壊れていく。

「いつもそこで何をしているの?」

謳うようにそう尋ねてきた彼女は、例の〝蝶〟であった。
声を掛けられたその瞬間、私はとっさにその身を隠したのだが、優しく返答を促され、おずおずと再び生垣の蔭から窓辺を覗き込んでみる。
そこには、精液にまみれた美しい裸体が佇んでいた。
絹のような艶めきを持った黒髪も、微かに紅潮した頬も、豊満な乳房や程よい肉感を持った太腿にも――。
浴びるように精液を受け止めていた彼女であったが、それでも醸し出す高貴さは一切損なわれることがない。むしろ、己の全身を穢す白濁を勲章のように堂々と曝け出す姿は絶対的な支配力を持つ女帝のそれだ。
しかし、その威風堂々たる佇まいとは裏腹に、こちらへと語り掛ける声音はひどく優しかった。

「あ、あの……」

彼女は確か、こう言った。
――いつもそこで何をしているの、と。
瞬間、私はとてつもない羞恥に襲われる。
気付かれていたのだ、この人に。私がいつも生垣の蔭から、秘密の情事を覗き見ていたことを。そして恐らくは、それを見ながら自慰に耽っていた事も。
思わず逃げ出そうと右足を一歩後ろへ引いたのだが、目の前の彼女は優しげな微笑を浮かべたまま、秘密を覗き続けていた私を咎めるような台詞は決して口にはしなかった。
それどころか、

「ねえ、アナタも一緒に混ざらない?」

気持ち良いこと、好きなんでしょう?
思わぬ誘いに、鼓動が高鳴る。
私が、あの屋敷の中へ?

「覗いてるだけじゃ勿体ないわ。さあ、こっちへいらっしゃい」

心地よい声に誘われ、私はふらふらと窓辺に歩み寄っていく。
伸ばされた彼女の手を借りて窓枠を越え、とうとう禁断の屋敷の中へと足を踏み入れてしまった。
途端、耳に飛び込んでくる様々な嬌声と、獣のような呻き声。
よくよく見渡してみると、窓の外から覗き見ていた時よりも随分と大勢の人間が互いに絡み合い、精を吐き出し、頽れているのが見てとれる。
そして、鼻を掠める精液や愛液のむせ返るような匂い。それに付け加え、香でも焚いているのだろうか、香ばしくも奇妙なほどに甘い煙が薄く漂っている事に気が付いた。

「あ……」

その香りを胸いっぱいに吸い込んだ途端、聴覚と嗅覚がより一層研ぎ澄まされるような不思議な感覚に陥った。
動悸が、激しくなる。

「さあ、服を脱いで。ここではむしろ、服を着ている方が恥ずかしいくらいなんだから」

漂う香りと同じくらいに甘い声音が、突如耳朶へと吹き込まれた。

「で、でも……」

背後から例の彼女に抱きすくめられ、素肌を弄られながら私は纏った衣服をどんどん脱がされて行ってしまう。
紅潮した頬とは裏腹に、肌を弄る彼女の指先は氷のようにひんやりと冷たかった。

「アナタ、お名前は?」

耳朶を舌先で嬲りながら甘く尋ねられ、思わず肩が震える。

「ゆ、藍子です……」
「藍子ちゃん、ね。歓迎するわ、ようこそ私のお屋敷へ」

言いながら彼女はブラジャーのホックを片手で器用に外した後、更にショーツまでをも容赦なくずり下げ、あっという間に私の衣服をすべて取り払ってしまった。
途端に、私へと向けられる好奇の視線。まるで一度も穢されていない私を嘲笑うかのようなその眼差したちに、どうしたら良いのか分からない。
助けを請うように背後を振り返れば、彼女は「心配する事など何もない」と言いたげな慈悲深い微笑を薄く浮かべると、私の身体を抱きすくめたまま、あろうことか既に洪水を起こしていた私の性器へ、その冷たい指先を沈め始めたのだった。

「あ、っ……。イヤ……!」

潤みきったそこを他人に掻き回されるという事実もそうだが、何より情事を覗き見ながらはしたなく興奮を覚えていたことが明るみに晒されてしまった現実が何より恥ずかしくて後ろめたい。
そこに触れてほしくなくて、だけど快楽のすべてを熟知した彼女の指先が与えてくれる愛撫は格別で、私は抵抗を示すどころか更なる刺激を求めるように腰をゆらゆらとくねらせてしまう。

「ああッ、だめです……!」
「駄目じゃない、気持ち良いんでしょう?」

更に固くしこった乳頭を摘ままれ、そして転がされ、つま先が何度も跳ね上がる。
どうして彼女はこんなにも同性に的確な愛撫を施す事が出来るのか。否、同性だからこそウィークポイントを心得ていたのかもしれない。
元々、自分で慰めていたこともあってか私の性器は今や愛液が床へと滴るほどに湿り気を帯びて他人の指を易々と受け入れていた。

「ねえ、気持ち良くなって来たでしょう?」
「ン、あ……。きもちい、です……」
「……そう。じゃあ、今度はもっと太くて硬いもの挿れてみましょうか。もっともっと気持ち良くなれると思うから」

すると彼女は、私の性器に指を突き立てたまま逆の手でひらひらと手招きをしてこちらに誰かを呼び寄せた。

「そこのアナタ、藍子ちゃんに挿入してあげて。この子、今までずっと自分の指だけで我慢してきたみたいなの。アナタの立派なそのペニスを挿れてあげたら、きっと喜んでくれると思うわ」

現れたのは、でっぷりと太った中年の男だった。
大きな腹を揺らしながら現れた彼にぶら下がる男性器は既に硬く勃起していて、亀頭はまるで潜り込む穴を求めるかのように高く頭を擡げている。
あまり男性器を直接目にする機会がなかったのでそれがどれほどのものか正確な判断はつかなかったが、自分の父親と比べると彼のペニスは凶悪なほどに大きく、そして丸太のように太かった。

「あ、だめ……! 挿れちゃ、だめぇッ……!」

悲鳴に、涙が入り混じる。
ふと、幼馴染の事が頭を過ってしまったのだ。
いつかは、私もセックスを楽しむ時が来ると思っていた。だけどその相手は本当に好きな人――良太君だと当たり前のように考えていたのだ。

「可愛い子だねえ、もしかして初めてなの?」

中年男が、下卑た笑い声を零しながら大股でこちらへと歩み寄ってくる。

「ほら、おじさんの凄いでしょ? これを君に挿れてあげるからね」
「あ、あ……」
「お腹いっぱいにしてあげようね」

凶暴な屹立を見せつけられ、まずこみ上げてきたのは恐怖だった。
瞬間、再び幼馴染の笑顔が瞼の裏に蘇る。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。どうして、こうなる事を予想していなかったのだろう。

「やめて、っ……。いや、やめてください……!」

身を捩ってはみたものの、柔らかく、しかし絶対に逃がすまいと優しい抱擁で私を拘束する彼女の腕を振りほどくことは叶わない。

「大丈夫よ、私たちに任せて」
「すぐに気持ち良くなるよ」

唆す男女のその言葉は、まるで遅効性の毒のように少しずつ染みていって、私の自由を奪っていく。
どうしてだろう、思うように力が入らない。
ろくな抵抗をすることも出来ないまま、私は両足の間に太った男の身体が割り入る様子を、ただ震えながら眺めていた。

「藍子ちゃん、力を抜いているのよ。まあ、力を入れたくてもこんな状態では恐らく無理でしょうけどね」

くすくすと彼女が笑う。それに釣られるようにして、大きく広げられた私の足の間にその身を収めた男も笑った。

「いま、挿れてあげるよ。ほら、見ててごらん……」

血管が浮き出るほどに勃起した肉棒の先端が、ずぶりと私の性器に沈んだ。

「いや、あああっ」

まず感じたのは〝衝撃〟だった。
痛みという感覚を越えた鋭い衝撃が、私の身を中心から切り裂いていく。

「だめ、入ってきちゃう……。やだ、やめてえッ」

メリメリと少しずつ、しかし強引に埋め込まれていく男性器の凶暴さに慄いた私は力が入らないながらも唯一自由に動かす事の出来る頭を左右に緩く振り、どうかそれ以上、私の中に入らないでくれと涙を零しながら懇願した。

「藍子ちゃん、処女だったのかあ。すごいねえ、おじさんの入りきらないくらいキツいよ」

男の言葉通り、突き入れられた肉棒は根元まで完全には埋められなかったらしく、半分ほど挿入したところでその締め付けを堪能するかの如くゆっくりとした出し入れを何度か繰り返す。
ほどなくして訪れた、こじ開けられているような痛みに身悶え、私は涙を零し続けるしかない。
痛い、痛い、痛い……!
そんな訴えを言葉として表せない程のショックに見舞われ、ぐずるような呻きばかりを零してしまう。
よくよく結合部を見下ろしてみると、性器から滴り落ちた鮮血が太腿を伝い、ぽたりぽたりと私の足元を汚していた。

「あ、あ……っ。嫌、いやあっ!」

膜を突き破られたのだと自覚した瞬間、性器のみならず心まで蹂躙されてしまったような気がして、とてつもない絶望に苛まれてしまう。
穢されてしまったのだ、私は。見知らぬ醜い中年に。私は、あろうことか真っ新な身体を血で穢された――。

「大丈夫よ、ゆっくりと息を吐いて。力を入れようとするとと余計に苦しいわ」

と、その時である。
耳元へ、淫魔の囁きが吹き込まれた、

「気持ち良いことだけに意識を置くの。大丈夫、すぐに善くなるから」

言いながら彼女は背後から私の身体を抱きすくめたまま、男性器を半ばまで呑み込んでいる結合部へとそっと手を伸ばす。
そして捲れあがって露出した陰核に触れ、そこを爪の先で軽く引っ掻くように擦り始めたのだ。

「あ、ン……っ、駄目です……!」

こじ開けられているその場所に、痛みの上から痺れるような悦楽が覆いかぶさっていく。

「深く息を吸って、ゆっくり吐いて。ほら、香の匂いを胸いっぱいに吸い込むとより気持ちが良いでしょう?」

そんな誘惑に促されるまま、私は痛みから逃れたい一心で深呼吸を繰り返し、与えられる陰核への愛撫へ意識を集中する。
気持ち良いことだけ、それだけを必死に拾い集めて漂う甘い香りを喉から胸へ、更には下腹へと受け入れていく。
吸い込んで、吐いて。そして与えられる刺激に抗わず、すべてを感じて、肯定して――。

「あっ、あ……ッ」

やがて性器を蹂躙するペニスの摩擦さえ、快楽へとすり替わっていった。

「きもちい、っ……。ああッ、気持ち良く、なってきちゃったぁ!」
「本当? それは良かった。じゃあもっと奥まで挿れてあげようね」

言いながら男はぐいと自らの腰を押し付けて、私のより深い場所へと猛る性器を押し進めた。
反射的にそれを膣内で締め付ければ、彼はとても気持ちが良さそうに目を細め、埋め込んだそれを更に大きく私の中で膨らませる。

「んッ、大きくなった……。おじさんの、大きい……っ」
「藍子ちゃんが締め付けるから大きくなったんだよ」

大きく膨らんだ亀頭の先で抉るように最奥を貫かれ、思わず息を詰めてしまったけれどもう痛みや衝撃などの苦痛は和らいでいた。

「もっとして、もっと……!」

気が付けば私は目の前にいる男の首に腕を回して縋りつき、それだけでは飽き足らず、丸太のような彼の腰にはしたなく開いた自らの脚を絡めて、律動を促すよう積極的に腰を振り始めていた。
こちらから大きく腰を振るたび、より強烈な悦楽が脳髄にまで届き、体中が痺れていく。
自分の膣内にて律動する男性器が膨らむたび、そして粘膜にこすれるたび、疼くような快感が爪先から電流のように駆け上がって、やがて両脚がガクガクと震え始め――。

「あああッ」

子宮の中へ、熱い奔流が放たれる。
その瞬間、目の眩むような激しい波に私自身も呑み込まれて意図せず背筋や内股がビクビクと痙攣したように跳ね上がった。
それは、身体の中に燻っていた熱を一気に解き放ったかのような、不思議な感覚だった。

「あら、藍子ちゃんったら……。初めてなのに、中に出されてイッちゃったの?」

からかっているのか、それとも宥めているのか判別のつかない柔らかな声音が耳元で甘く笑う。

「気持ち良かったでしょう?」
「ンぁ、あ……」
「大丈夫よ、もっともっと気持ち良くなれるから」

言いながら、彼女は細い指先で未だ肉棒を咥え込んだままである私の性器内をぐちゃぐちゃと、はしたない音を立てながら浅く掻き回し、膣内に放たれた精液を掬ってそれを見せつけるかの如く私の視線の先で舐め取ってみせた。
私の愛液と見知らぬ男の精液が入り混じったそれを心底美味しそうに舐る彼女の表情は実に淫靡で、同性であるにも関わらずドキドキするような色香を放ち続けている。

「さあ、今度は藍子ちゃんがご奉仕をする番よ。その可愛いお口で、おじさんのペニスをお掃除してあげましょうね」

私は訳も分からないまま、鼓膜へと吹き込まれ続ける誘惑の囁きにただひたすら頷き続け、もはや「嫌」と口にすることも身を捩る事も出来ずに快楽の中へ少しずつ沈んでいった。
頽れるようにカーペットの上へと跪き、私の膣内から抜き出されたばかりの陰茎を口いっぱいに含んでみる。

「ンン、っ……。ふッ」

口腔内で扱くたび、それは懲りずに硬度を増して、やがて頬を押し上げるまでの大きさに育って先端からはしたなく先走りを零し始めた。
性器を貫かれるのと同じように、喉の奥を蹂躙されるのが気持ち良くて仕方がない。
未だ掻き出されぬまま膣内に残されている精液をボタボタと滴らせながら、私は口淫に夢中になった。

「ふぁッ、ンン……」

ほどなくして吐き出された精液を、すぐには飲み下さずに口内へとあえて留め、舌の表面で何度か転がし味わってからごくりと音を立てて嚥下した。
味わったことのない苦みに、どうしてだか興奮を覚えて再び亀頭に舌先を伸ばして残滓に何度も吸い付いてしまう。
もう一度、これを挿れて欲しい。はやく、はやく、いっぱいにして。
そんな私の焦燥が通じたのか、背後で見守っていた蝶は再び誰かをしなやかな手招きで呼び寄せると、

「ねえ、アナタ。この藍子ちゃんにお尻の気持ち良さも教えてあげて」

そんな魅惑の提案を突きつけた。

「じゃあ、二本挿れてみようか」
「きっとお尻もキツキツなんだろうなあ」

新たに現れた若い男と、先程のでっぷりと太った中年に挟まれて、今度は性器のみならず、本来であれば排泄器官としてのみ使用されているはずの臀部の窄まりへ猛る肉棒が少しずつ沈んでいった。

「やああッ、両方だめ……っ、きもちいいから、だめぇっ」

膣内に再び陰茎を突き立てられた喜びが、まず私を狂わせる。
そして誰にも触れられたことのない直腸にまで肉棒が沈む感覚は、とてつもない悦楽を脳天へと齎してくれたのだ。

「どうして、っ……。お尻も、きもちい……。なんで……」

排泄器官への挿入がこれほどに気持ちが良いものだとは思いもよらず、じわじわと全身を侵食するかのように広がっていく未知なる感覚に私は取り乱し、そして大いに悶え狂った。

「ああッ、だめ……っ」

まだそれらが沈み切っていないというのに、私は挿入の最中に一度絶頂を迎えてしまった。

「ああっ、きもちいの……。もう、きもちいいの……!」
「こらこら、まだ挿れてる最中だろう?」
「本当に気持ち良いのはこれからだよ、藍子ちゃん」

彼らの言葉通り、律動が始まってからは更なる快楽の波へと呑み込まれる事となった。

「はァ、っ……。ンンン!」

他人に自分の内側をめちゃくちゃに乱されるという行為が、これほどまでに気持ちが良いものだとは思ってもみなかった。
決して暴力などではない、しかしどこか残酷で背徳的な性行為は今まで己を慰め続けていた私に欠けていたすべてを埋めてくれるような、満足感の高い交わりだった。

「いく、いっちゃう……!」

猛るペニスが直腸や膣内を行き来するだけで、どうしてこんなに気持ちが良いのだろう。

「藍子ちゃんっ、お尻の中にも精子だすよ?」
「んあッ、出して、いっぱい……!」
「おまんこにもまた沢山出してあげようね」
「あああッ、いっぱい、欲しい……!」

子宮と下腹の深い場所で、熱がはじけて、どろりと溶ける。
それから私は、抜き取られた二本の肉棒を再び代わるがわる口に含んで慰めて、そして滴る白濁を綺麗に舐めとったそれをまた膣と直腸に突き入れられて、穢されて……。

「もっと、もっと掻き回してぇ……ッ」

一晩かけて、私はあの屋敷に居た――否、在った肉棒を一つ残らず自らの体内へと受け入れ、扱き、吐き出される精液を全身へと浴び続けた。
しかし、狂宴はたった一日だけでは終わらない。

「気持ち良かったでしょう?」

全身に浴びた精液を拭いとる力すら残されるほど犯されぐったりと床に横たわる私の元へ、彼女がそっと歩み寄ってきた。

「……またいらっしゃい、待ってるわ」

以来、私は両親が不在の夜が訪れるたびに自宅を抜け出し、あの屋敷へと通うようになってしまったのだった。



あの屋敷には、かなりの人数が出入りをしているらしい。
大半は見知らぬ男女であったが、その中に毎朝登校時にすれ違う若いサラリーマンや、行きつけの歯科に勤めている受付嬢など、顔見知りを見かけることも少なくはなかった。
だけど、私も、そして相手も、そんな事は気にも留めず、ただお互いに快楽へと耽り、夜が明ければまた日常へと何事もなかったように戻っていく。ただ、それの繰り返し。
屋敷の外で顔を合わせたとしても、互いに夜のことを振り返ることはなかったし、あの屋敷以外で情交に耽ろうなどという気持ちは何故だか微塵も起きなかった。
あの場所だけが、特別なのだ。

「ああっ、気持ちいい……っ」

そして今宵も、ただ快楽に耽っていく。
ゆらゆらと揺れる裸電球の下で、一糸纏わぬ姿のまま獣のように交わり、吐き出し、声をあげる。
時には同じ女同士で互いの膣を舐め合う事もあったし、お互い別々の男に抱かれながら唇を合わせる事もあったが、今や誰と繋がろうとも抵抗感はなかったし、そもそも追い求めているのは悦楽だけなので体の疼きを慰めてくれる相手であれば男であろうが女であろうが、そして人間ではなかろうが、最早どうでもよくなっていたのだ。

「あっ、あ……ッ、もっと奥まで……!」

今夜も見知らぬ誰かの肉棒を膣内に、そして直腸内に受け入れて、私は乱れに乱れてしまう。
背後から容赦なく貫かれながら、私は正面で同じように後ろから攻め立てられていた例の蝶――〝お姉さん〟と舌を絡めて与えられる悦楽を分け合っていた。
このお姉さんは、やはりこの館の主であるらしい。しかし、それ以上のことは分からなかった。
名前を聞いても、年齢を聞いても、職業を聞いても「私は私よ」とはぐらかされるだけで、未だ何の個人情報も得られてはいない。
だけど、私も含めて屋敷に出入りする人間たちは、彼女の正体やこの狂った宴の目的などをしつこく問い質すようなことは勿論しなかった。
日常から切り離されたこの世界に生々しい現実や個人の事情を持ち込むのは躊躇われたし、夢と現の境界をあやふやにするような真似は私としてもあまり気は進まなかったので、お姉さんに纏わる事情は気にしない事にしていたのだ。
けど、時が経つにつれてお姉さんは心を許してくれたのか、時折情事のあと、二人きりで紅茶を飲みつつ色々な他愛もない会話を交わしてくれる機会が少しずつだが増えてきた。

「藍子ちゃん、これ今月分のピルよ」

お姉さんは淹れたてのミルクティーと共に錠剤の束をそっと差し出しながら、まるで小児科医のような口調で柔らかくそう言い添える。

「……いつもありがとうございます」

私は生理用品を入れているポーチの底へ隠すように受け取った錠剤を丁寧にしまい込んでから上品な細工の施されたカップの取っ手へ指先を伸ばし、喘ぎ過ぎたためか少し掠れてしまった喉を潤すべく紅茶をひと口ごくりと飲み下した。
実はこれまでに二度ほど、私は妊娠をしてしまった事がある。
危険日などを考慮せず、ほぼすべての精液を体内で受け止め続けていたのだから当たり前といえば当たり前の出来事なのだが、一度目のときは取り乱すあまり、しばらく屋敷にも学校にも足を運ぶことが出来なくなり、ベッドの中で震えながら泣いて過ごしたほどだった。
そんなとき、救いの手を差し伸べてくれたのだがこのお姉さんなのだ。
学校や家族には事情を伏せたまま、そして費用まで負担してくれた上で彼女は私に堕胎手術を受けさせてくれた。もちろん、二度目の妊娠が発覚した時も、すぐにお姉さんは一度目の時と同様に、屋敷へと通うメンバーの中の一人でもある医療従事者の伝手で紹介された病院を手配してくれたので妊娠の事実はおろか、堕胎の経緯を知る者は当人である私を除けば、このお姉さんたった一人きりである。
――最初は、幼馴染の良太君に相談しようと思っていたのだ。
彼ならこの屋敷の事を知っているし、何より長年の付き合いがある〝ともだち〟でもあったし、それに――こんな事になってしまって、少しだけ罪悪感も抱いていたから、妊娠を相談するついでに私が踏み入れてしまった世界の事を、全部打ち明けてみようかと悩んだ時期もあった。
けど、やっぱり……とてもじゃないけれど、言い出せなかった。
そのうちにお姉さんが救いの手を差し伸べてくれて、やがて抱いていた罪悪感も徐々に薄れていって、気が付けば私は彼女から離れられなくなっていたのだ。

「困ったことがあったら、また私に相談してね。いつでも力になってあげるから」
同じミルクティーを啜りながら、お姉さんは未だ情事の名残が色濃く残った艶やかな微笑で私に微笑みかけてくる。
「は、はい……」

そんな彼女の笑顔を見ているだけで、また子宮の奥がズクズクと疼き始めてしまう。
何度交わっても、交わり足りない。もっともっと、昼夜を問わず交わっていられたらいいのに、この屋敷内で夢に溺れてしまいたいのに――。
紅茶入りのカップを両手で包んだまま、不埒な妄想に耽る私の内心を見透かしたのか、お姉さんはふと伸ばした指先でこちらの頬を軽く擽るように撫でた後、濡れた唇を耳元へ寄せ、ねっとりとした声音で熱を持て余す私を優しく宥めてくれた。

「駄目よ、今日はもう帰りなさい。あまり無理をすると、体に障るわ」
「っ、はい……」
「いい子ね、藍子ちゃんは。アナタの素直で可愛いところ、本当に大好きよ」

彼女の言葉は、形のない愛撫のように耳朶から少しずつ染み込んで、やがて子宮へたどり着く。

「あらあら、藍子ちゃんったら。声だけで気持ち良くなっちゃうの?」

くすくすと零れる笑い声さえ、揶揄された通り気持ちが良くて仕方がなかった。
履き替えたばかりのショーツが再び愛液でじんわりと濡れ始める感覚も堪らない。けど、お姉さんに嫌われたくないから、今日はもう帰らなければ。

「ンっ、ごめんなさい……。また、明日来ます!」

意を決して私はソファから立ち上がると、快楽に震える自らの身体を、かかえた鞄ごと強く抱き、一礼をして逃げるように屋敷から走り去った。
何者の侵入も許さないと固く閉ざされていた鉄扉を内側からそっと押し開け、人気のない路地へと転がるように慌てて駆けていく。
ああ、早くこの疼きを解消したい。一刻も早く家に帰って、そしてベッドへ潜り込んだら久々に自分で慰めよう。
お姉さんが灯した劣情の炎が鎮まらないうちに、一刻も早く膣内を掻き回したくなってしまった私は鞄を胸に抱いたまま、人気のない夜道をひたすらに駆け、家路へと着いたのであった。



そして高校生活初めての夏休みを目前としたこの日も、私は屋敷内で情事に耽っていた。
膣内と直腸に滾る肉棒を深くまで咥え込んで、自らも一心不乱となり腰を振り続けながら、私は悦楽を食らい続け、咆哮じみた嬌声をあげて淫らな空間に酔いしれる。

「あっ、ああッ」

髪を振り乱すたび、毛先から滴る白濁が辺りへと飛び散った。
口淫などを繰り返した私の全身は既に精液に塗れていて、もはやこのまま溺れてしまうのではないかというあまりにも稚拙な考えが頭を過るほどである。

「んんッ、あったかいの……。いっぱい……!」

吐き出され続けた精液が、下腹のあたりでタプリと揺れる感覚が堪らない。
もっと、もっと、注いでほしかった。咥え込んだ肉棒で栓をしていても溢れてしまうほどに、膣内も直腸も、そして口腔内も、とにかく全身で精液を浴び続けていたかった。

「あ、ン……。もっと、欲しいのっ」

夏休みが始まれば、毎日ここへ通うことが出来る。
その悦びも相俟ってか、今日はいつも以上に快楽に飢えて、はしたなく腰を振り続けてしまった。
未だ昼間の熱を吸い込んだまま、むせ返るような湿気と暑さを保ち続けている外の世界と違って屋敷の中はひんやりと冷え切っていたというのに、激しい情事に溺れるあまり、私のこめかみからは精液交じりの汗がひっきりなしに流れ落ちては自分の足元を汚していく。

「あ、っ……。熱い、あたまとお腹、あついの……」

刻み続けられる悦楽が脳を沸騰させ、精液を注ぎ込まれ続けた下腹もじんわりと熱を持ち始める。
どこもかしこも熱くて、切なくて、これだけめちゃくちゃに犯され続けたにも関わらず、欲求は次から次へと溢れて底を尽くことがない。

「もっと、挿れて……。いっぱい、欲しいっ」

律動の最中、うっかり瞳の中へ流れ込みそうになった汗の雫を振り払うべく軽く首を振った、その時だった。

「あ……!」

窓の外に、見慣れた少年の顔を見つけたのだ。
あれは、今朝一緒に登校した幼馴染の良太君である。

「良太、くん……」

嬌声の合間に、思わず名前を呼んでしまった。
あの時、一緒にこの館内の情事を覗き見ていた彼が、今度はこうして私のはしたない姿を目の当たりにしている。

「ああ、良太君……っ」

夢と現、内と外。過去と現在が、混じり合う。
良太君も私と同じように、あの夏の日に覗き見た秘密の情事がきっと忘れられなかったのだろう。だから彼もここへやって来て、ああやって覗いているのだろう。
途端に私は、どうしてだが嬉しくなってしまった。

「んあッ、良太、くん……っ」

こっちへ来て、一緒に混ざらない?
震える唇を動かして、ガラスの向こう側に立ち尽くしている彼に私はそう微笑みかけてみる。
ああ、これからは良太君とも一緒にセックスが出来るのかとまだ見ぬ甘い時に思わず身体を震わせたのだが――。

「……っ」

何故だか彼は、ひどく悲しそうな表情を浮かべていた。
顔を真っ赤に染めて、股間は窮屈そうにスラックスを押し上げているというのに、どうしてそんな顔をしてこっちを見ているのだろう。
ぼんやりと考えながら、しかし、新たに膣内と直腸、そして口腔内にまで潜り込んできた凶暴な肉棒に再び翻弄され、次第に良太君の存在を私は忘れていった。

「藍子ちゃん、今日は一段とキツいねえ」
「ンンっ、ああ……ッ」

穴という穴を塞がれて、どこもかしこも擦られて、濡れて舐られて、頭がおかしくなりそうだった。
もう、日常になんて戻りたくない。永遠にここで、淫らな情事に耽っていたい。

「んぅ、ぐ……っ」

喉の奥にまた新たな白濁が叩きつけられた瞬間、歓喜のあまり私は膣内に収めた陰茎を強く締め付けてしまった。

「ああッ、出てる! 精液、いっぱいナカで出てるのぉっ」

瞬間、膣内にも吐き出される精液。
実際、目にしていなくともそれがとても濃い色をしているであろう事が窺えるようなどろりとした感触に興奮するあまり、今度は直腸に収めたそれまできつく締め付けた。
続けざま、直腸内にもたっぷりと注がれる子種たち。途端に下腹が更に膨れ上がり、更にたぷりと音を立てて揺れる感触が薄い皮膚越しに伝わってくる。
私はその感覚が、いつだって堪らなく好きなのだ。
どうして良太君は混ざろうとしないのだろう。覗きに来たのであれば、一緒に楽しめばいいのに――と、再び窓の方へ視線を流したその時、良太君は真っ赤に染まった頬へ一筋の涙を流した後、どこかへ走り去ってしまった。

「あ、ン……っ、どうして……」

逃げなくてもいいのに。お姉さんたちも、そして私たちも、アナタを歓迎するのに。

「んあ、ッ……。ああ、きもちい……!」

未だ私のお腹の中に埋め込まれたままだった二本の肉棒が、再びその頭を擡げ始めた為に沸き上がった疑問はたちまちかき消されてしまった。
再び揺さぶられ、粘膜を擦られて、あっという間に快楽の波へと呑まれ、そして沈んでいく。
もはや良太君の事など頭の片隅に追いやられて、私は与えられる悦楽に没頭するしかない。

「やだ、足りない……ッ。まだ、おちんちん、足りないのぉッ」

膣、直腸、そして唇だけではもはや満足が出来ないと喚けば、どこからともなく闇の中から肉棒が一つ二つと現れ、私の両手や乳頭にその先端が擦り付けられていく。
挙句の果てには女性の唇や舌先まで私の肌を這い回り始めて、たちまち全身がとてつもない悦楽へと包まれた。

「藍子ちゃん、どんどんエッチな身体になっていくわね」

耳元で甘く囁いたのは、いつの間にか私の首筋に魅惑の舌を這わせていたお姉さんだった。

「ねえ、もう夏休みが始まるんでしょう? 折角だから、夏休み中はこのお屋敷で私とお泊りしましょうよ」

そして一日中、ずっとセックスをしていましょう。
耳朶へと吹き込まれた誘惑を、断れるはずもなかった。

「は、はい……っ。私、ここで暮らします……! ずっとずっと、エッチなことしていたいです……っ」

いつかの夏の夕暮れに覗き見た白昼夢の中に、私を閉じ込めて欲しい。そして気が狂うまで私の中を蹂躙して欲しかった。

「嬉しい、これからしばらくはずっと一緒にいられるのね」
「あ、あ……ンんっ」
「きっと楽しい夏休みになるわ。藍子ちゃん、いっぱい気持ち良くしてあげるからね」

そう言ってお姉さんはそっと私の唇に自分の唇を重ねると、肉厚な舌先をねじ込んで、今まで咥えていた誰かの肉棒に負けず劣らずの淫らな愛撫で私の口腔を溶かしてくれた。

「んっ……、あああッ」

口端からあふれ出した唾液が精液と混じり合い、とろけて零れ落ちていく。
ああ、もう現実になんて戻りたくない。永遠にお姉さんたちとこうやって交わっていたいのに――。
そんな事を願いながら、私は与えられる様々な愛撫に再び溺れ、この日は気を失うまで劣情を求め続けたのであった。