お屋敷の主×メイド(男の娘ふたなり)

重厚な木製扉をいつもの通り、三度ノックしてからノブを捻ってゆっくりと慎重に押し開ける。

「……失礼します。ご主人様、紅茶をお持ち致しました」

そう声を掛けると、部屋の奥、プレジデントデスクの向こう側、黒革の椅子に深く腰を下ろした主である佐藤が顔を上げ、ティーセットを抱えた手越に向かい、そっと微笑んでみせた。

「ありがとう、てごちゃん」

こんな夜更けだというのに書類仕事でも片づけていたのだろうか。彼は鳶色のダブルスーツを隙なく纏った姿のまま、デスク上に高々と積まれた紙の束を慣れた手つきで捌き続けている。

「悪かったね、夜中に呼びつけて。ちょっと今日は立て込んでて、遅くまで掛かりそうだから……」

こちらに向けられた柔和な笑顔が、ほんの僅か、申し訳なさそうに小さく歪む。
そんな些細な表情の変化にさえ視線を奪われてしまう程、華やかで端正な顔立ちを持つ佐藤の煌めきに胸を高鳴らせつつ、手越は銀トレイの上に乗せたティーカップやソーサー、湯入りのポットを仕事に勤しむ彼の前へと手早く並べつつ、気にすることはないと緩く首を振った。

「いえ、こういった時の為に僕たちのようなメイドが仕えているのですから。また何かありましたら、遠慮なくお申し付けください」

とは言いつつも、午前零時をとうに過ぎた頃、手越の私室宛てに佐藤から直接内線が掛かってきたときは、何事かと少々慌ててしまった。
既に通常業務を終え、シャワーも浴び、あとは就寝するだけといった頃、夜の静寂を切り裂くようにして鳴り響いた電話の呼び出し音は、ウトウトと瞼を閉じかけていた手越を覚醒させるには十分すぎる程の鋭さを孕んでいた。
その後、受話器越しに告げられた用件。それは、温かい飲み物を持ってきてほしいという些細なものであった。
しかし、命令は命令だ。それが主の佐藤から直接突き付けられたものであれば尚の事、従わないわけにはいかない。
という事で手越は慌ててクローゼットから再びワンピースやエプロン等、給仕の際に身に纏っている制服を一通り引っ張り出して身に着けた後、佐藤が特に気に入っているダージリンティーのセットを持ちだし、こうして彼の書斎へやって来たというわけだ。

「じゃあ、折角てごちゃんが来てくれたことだし……。ちょっと休憩しようかな」

佐藤は書類を捌く手をようやく止めると、椅子の背もたれに長躯を預けながら凝り固まった全身をほぐすかの如く大きな伸びを一つする。
その表情に疲労の色は未だ窺えなかったものの、深夜にまで及ぶ単調な作業に心身は堪えていたのだろう。伸びをすると同時に零れた深い溜息にはうんざりとした気配が入り混じっており、彼の多忙ぶりを改めて垣間見たような気がした。

「では、紅茶をお淹れ致しますね」

ポットを傾け、温めたティーカップへとコクのある香り漂うダージリンティをゆっくり注いでいく。
紅茶を淹れる作法などメイドとしてこの屋敷に仕えるまでは全く知らずにいた手越であったが、今では手慣れたもので、屋敷中の誰よりも上手く佐藤好みの味を再現できるまでになっていた。
「やっぱり、てごちゃんが淹れる紅茶が一番だね」
そう言って佐藤に微笑まれるたび、どこかくすぐったいような喜びが爪先からこみ上げてきて妙な気恥ずかしさに包まれるのは何故だろう。
称賛を贈られているはずなのに、それを素直に受け止められず背徳を覚えるとはなんとも奇妙であると手越は思わず俯くと、自らの戸惑いを堪えるように、纏ったエプロンの裾を指先できゅっと握り込んだ。

「……ねえ、てごちゃん」

と、その時である。
カップを片手に紅茶を楽しんでいた佐藤の唇が、ふと妖しく、しかし普段通りの優しさも決して崩さないままゆるりと弧を描いた。

「もっと、こっちに来て欲しいな」

そんな甘い誘惑の言葉と同時、物腰柔らかな言動には似つかわしくない強引さで、佐藤は手越の腰をその腕の中へとふいに抱き寄せる。
「……!」

唐突な出来事に思わず腰が引けてしまったが、彼はすらりとしたスーツ姿のシルエットからはとても想像がつかないほどの逞しい腕力で遠ざかりかけたこちらの身体を改めて抱え直し、頬を綻ばせてうっとりと囁いた。

「ずっと、こうしたかったんだよ」
「……ッ、え……?」
「てごちゃんに触りたくて、仕方がなかった」

言いながら彼は今度、手越をその腕に抱き寄せたまま、もう一方の手で短いスカートの下からすらりと伸びた手越の白い太腿に触れ、爪の先で擽るように粟立つ肌をそっと掻く。

「ァ、っ……」

触れられたその瞬間、先ほどまで抱えていた奇妙な背徳が明確な形を持って、全身へと広がっていくような危険な感覚を覚えてしまった。

「う、ぁ……ッ」

そこで、手越は気が付いてしまった。
今まで佐藤に褒められるたび、爪先から沸き上がっていた感情の正体に。

「ご主人、様……っ」

――それは、劣情だ。
彼の優しい声音、そして視線を、官能として受け止め続けていた自らの浅ましさに手越は愕然とする。
向けられた労いの数々に、どうして性的興奮を覚えてしまっていたのだろう。

「ほら、おいで」

より一層、強い力で抱き寄せられた手越はというと、あろうことか主人である佐藤の膝上へと跨り、自らの身体を預けるような姿勢でそこに腰を下ろしてしまっていた。
瞬間、ふわりと浮いたワンピースの裾から、すかさず佐藤の掌が改めて潜り込んでくる。
今度は五指すべてを使って肌の感触を楽しむように、どこかねっとりと。こちらの官能を引き出そうとあからさまな意思を持って這い回るそれに、ぞくりと背筋が粟立った。
ほどなくして、手越はまたしても思い当たる。
そもそも佐藤は、初めからこちらの劣情を煽るような眼差しでこの肌を弄んでいたのではないのか、と。

「ン……ッ」

ずっと、こうしたかった。彼は、確かにそう言ったのだ。
自惚れでなければ、やはり佐藤は手越の官能を全くそんな素振りも見せぬまま、少しずつ突いて刺激していたに違いない。
まさか、どうして。戸惑いながらも、自らの太腿を弄る佐藤の不埒な指先を遮る事が出来なかった。

「あ……っ」

潜り込んだそれは鼠径部のラインを悪戯に弄んだ後、遂にショーツへと辿り着く。
男という性別に生まれながら男性器を持たない手越のそこには、女のそれと同じ蜜壺、膣が息を潜めていた。
子宮と卵巣は備わっていない故、子を宿すことは不可能であったが、それ以外の機能は女性器と全くの同等である。

「ここで、俺のこと受け入れてくれるよね?」
「んんッ」

人差し指の腹で下着越しにひくつき始めた膣の表面をそっと撫で上げられ、手越の腰が大きく震える。

「……いいよね」

耳朶に舌を這わせながら、佐藤は甘く囁いた。
彼は布越しにぷっくりと膨らんだ膣の感触を楽しみながら、逆の手では手越が纏ったワンピースの胸元を飾るリボンを器用に解き、実に慣れた手つきでボタンを上から一つ二つと外していく。
少しずつ、露わになっていく手越の薄く膨らみの全くない胸板を眼前で目撃した彼はというと、どこか満足げな笑顔を浮かべてみせたあと、男のそれにしては色素の薄い胸の突起へと唇を寄せ、あろうことかなんの躊躇もなく吸い付いてみせたのだった。

「ん、あァ……!」

じん、と微かな電流が流れるように、吸い付かれたその場所から真っすぐと、膣に向かって鋭い悦楽が駆け巡る。
膨らみのまったくない胸板など弄んでなにが楽しいのか、という疑念が一瞬で吹き飛ぶほど、甘く強烈な刺激であった。
窄めた唇で何度も食まれ、硬く尖らせた舌先で転がされ、ほどなくして薄桃に色づいた手越の乳頭は淫らにしこり、興奮を赤裸々に示し始めている。

(以下略)
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