マッサージ店にて施術が徐々に妖しく変化

与えられる心地よさに入り混じる不埒な焔に気付けぬほど、美奈子も鈍い女ではなかったし、疲労困憊していたわけでもなかった。
会社帰り、いつものようにハイヒールによって酷使された足腰を労わる為に個人経営のマッサージ店を訪れたわけだが、毎度施術を担当する彼女――美奈子の恋人でもあり店長でもある遥の様子が、どうにもおかしい。
オイルをふんだんに含んだ掌がむき出しとなった美奈子の背中をぬるぬると滑っているのだが、パイプベッドに押し潰されているむき出しとなった両乳房の脇を時折擽ったり、腰に下った指先がそのまま下腹へ回り込んだりと、随分きわどい箇所までもみほぐしが及んでいたのだ。
果たしてそのような場所に疲労軽減のツボが存在するのだろうか、と。素人目から見ても怪しいものである。
が、しかし。彼女はプロだ。まさか職場で仕事中に、いくら恋人同士だからと言って下心を抱くなどとは到底思えなかった。
どうか勘違いであって欲しい。一瞬でも情欲の気配を遥から感じ取ってしまった自分を悟られたくはない――。
胸の内で言い訳を並べ立てていた美奈子であったが、腹の下へと潜り込んだ指先に臍の窪みをグリと優しく抉られたその瞬間、堪え切れず、下肢が躍るように跳ねてしまう。

「あの、遥さん……」

プロの施術に対して物申すのは憚られたが、彼女の思惑が不明なままではやはり不安が募る。
意を決し、美奈子は俯せとなった自らの背後でオイルマッサージを続ける遥の方を振り返ったのだが。

「どうかされました? 美奈子さん」

彼女の形良い唇は、妖しく弧を描いていたのだ。
その表情に浮かび上がっていたのは、明らかな「欲情」である。
普段は照明が落とされた薄暗い空間の中、ベッドの上から仰ぎ見た時のみ窺えるその官能的な貌を予期せぬタイミングで目の当たりにしてしまった。
どうする、どうしたらいい。個室とはいえ、扉の向こうには幾人もの人たちが行きかっているというのに。だが、抗いの言葉を絞り出す事は出来なかった。美奈子は施術用のパイプベッドに縫い付けられたまま、唇を戦慄かせる事しか叶わない。

「これから少し、敏感な場所に触れていきますね。少し擽ったいかもしれませんが……」

瞬間、皮膚の薄い下腹部――丁度、子宮の辺りに遥の五指が躊躇のない仕草で滑り込む。
そしてあろうことか、その指先たちは下着の中へと潜り込み、下生えの感触を楽しんだ後、陰核を柔く押し潰した。
もやもやとした正体不明の不埒な感覚が明確に悦楽へと姿を変え、美奈子の爪先から電流のように駆け上がる。

「っ、ああ……!」

指の腹で優しく押し潰されたその場所から全身へと波及する快楽は、鋭くも甘い。嬌声を堪え切れなかった。

「ここ、会陰っていうんですけれど……。女性にとって、大事なツボなんです。痛くはありませんか?」

今度は膣口と肛門の間に位置する部分を指の腹でグリと押し込まれ、爪先がひくんと小さく跳ねる。
愛液が早くもだらりとそこから伝うのが分かった。恐らく、会陰に刺激を与えているだろう、彼女の細く長い指先を濡らしているはずだ。

「だめ、遥さ……」

声を潜め、助けを請うように名前を呼ぶ。
だが、その手は止まらない。遥は艶やかな微笑をその端正な顔立ちに薄く貼り付けたまま、優しくも容赦なく美奈子の性感帯を黙々と攻め立てている。

「こんなところで、ダメだってば……!」

かろうじて抗いの台詞を絞り出してはみたものの、その声音は我ながら胸やけを覚える程に甘く媚びており、まるで説得力がない。
逃げるように腰を捩ってみても、それは拒絶の仕草として成立などしていなかった。
恐らく彼女は、美奈子自身よりも美奈子の肉体を熟知していることだろう。
どこに触れれば肌が粟立ち、どこを突けば腰が跳ねるのか――。
すべてを知り尽くした指先は心身をあっという間に懐柔し、理性を跡形もなくどろどろに溶かしていってしまった。
実のところ、ほんの少し唇を噛み締めて下肢に力を込めれば、彼女の腕を振りほどくことなど難しくはなかったはずである。そして遥の方もこちらが拒絶を突き付ける余地を多分に残して、的確ながらも慎重な愛撫を施しているのだ。
つまり、この先の展開は美奈子に委ねられたも同然だった。少々、狡い気もするが、しかし――駄目、と表面的な抵抗の言葉を口にするたび、子宮が物欲しげにずくりと疼いてしまう。
それは即ち、美奈子も求めているのだ。背徳交じりの情交が齎す刺激的な悦楽を。

「はあ、っ……ン、あ……」

会陰を刺激していた細い指が、とうとう膣へと潜り込んでくる。
ここへ来ても未だマッサージという体裁を保っているらしいそれは常と違い、濡れた粘膜をほぐすような仕草で抽挿を繰り返していた。
だが、そのような下心を巧みに隠した愛撫ですら、今の美奈子にとっては淫靡な行為であった。
ちりちりと、小さなパルスが弾けては下腹の底に蓄積され、やがては逃れようのない悦楽の焔となる。

「遥、さん……っ」

再び、美奈子は縋るような声音で恋人の名を呼ぶ。
今度は、制止の為の呼びかけではなかった。
取り繕いのない、決定的な快楽と愛情をぶつけてくれという懇願だった。

「……その顔が、ずっと見たかったんです」

甘く蕩け切った美奈子の表情を覗き込みながら、恍惚とした声音で遥が囁く。


(以下略)
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