隠語責め近親相姦(♥喘ぎ)

一日の執務を終えたフィリップの全身には、もったりとした倦怠感が纏わりついていた。心地よくも感じるが、しかし、全身が鉛にでもなってしまったかのように重い。
本日の労働をやりきったという充実感と、肉体に蓄積された鈍い疲労感に苛まれながら、フィリップは多少ふらついた足取りで寝室へと続く扉をゆっくりと開いた。
まず視界に入ってきたのは、部屋の奥に並んだ二つのセミダブルベッドである。一方は皴ひとつなく伸ばされたシーツがきちんと張られ、片やもう一方はというと、数時間前まで確かにそこへ人が横たわっていたという痕跡を強く残した乱れたままの様相を呈していた。

「兄さんったら、また散らかしたままで……」

フィリップの双子の兄であるツヴァイは、自身の事となるとどうにもずぼらで自堕落な部分がある。
王家に代々仕える執事の家計に生まれ育った二人は幼少の頃からその身に執事がなんたるかを叩きこまれた身の上であったが故、他人への尽くし方、ベッドメイキングや掃除の作法、紅茶の淹れ方や茶葉の選別に至るまで精通していたのだが、どうにもツヴァイはそのノウハウを仕事以外には全く活かせていないようだった。
今朝だってそうだ。時間にかなりの余裕を持たせて支度を整えていたフィリップに対し、ツヴァイは随分と寝坊をしていた事を思い出す。
恐らく彼は寝乱れたままのベッドを整える暇もなく、執事服に袖を通して部屋を出たのだろう。執務中にはそのような一面を微塵も見せない男であったが、ひとたび仕事から離れるとこの有様だ。
元々、自身の境遇や生まれ育った家庭に対して反発していた人間であった故、いつか仕事の最中にもボロが出てしまうのではないかと気が気ではなかった。
そこで、フィリップは決意したのだ。例え自身の境遇を呪っていたとしても血を分けた兄が居場所を失うことのないよう、出来得る限り後ろ盾になると。
幸い、フィリップ自身は公私問わず他人へ尽くす事に喜びを感じる性質なのだ。ツヴァイが少しでもその心に負担なく、執事の仕事を続けられるのであれば彼の代わりに寝具を整えてやるなど朝飯前だと、まずは皴だらけのシーツ上に脱ぎ捨てられた彼の執事服へと手を伸ばす。
一足先に仕事を終えたツヴァイは今頃、シャワーでも浴びているのだろうか。まったく、このままでは皴になってしまうとそれを拾い上げた瞬間。

「あ……」

襟元からふわりと漂う、甘い香り。その正体は恐らく、いつもツヴァイが身に着けている香水の匂いだ。
かなり薄らいではいたものの、バニラのような甘さに入り混じった微かなフェロモン――紛れもない、それはツヴァイ自身から分泌された艶やかな体臭が鼻を掠めたその時、どうしてだかフィリップは自身の中にひた隠した劣情を大きく煽られた。
鼻腔を擽るその微かな気配によって思い出されたのは、冷めた眼差しでこちらを真っすぐと見据えながらもその身に灼熱を迎え入れては腰をくねらせる彼の痴態だった。
情欲に飲み込まれ火照るフィリップを鋭い言葉で何度も詰りながら、鏡写しの如く自分と瓜二つの顔を持つ男は奥深くまでそれを咥え込み――。

「あ、ああ……」

なんの前触れもなく、記憶の中の熱がぶり返す。
堪らずフィリップは手にした衣服の襟元に顔を埋め、肺の深くまで香りを取り入れるべく音をたてながら大きく息を吸った。

「は……っ、ふ……」

臓腑に満たされる甘さがじわじわと、血管を巡って全身に広がっていくような感覚をおぼえ、感嘆の溜息が零れてしまう。
まるでひとつに溶けあうような悦びであった。その残り香を飲み込むことで、間接的にツヴァイと心身を重ね合わせたような錯覚に陥る。それはあまりに甘美な妄想で、たちまちフィリップの理性を脆い砂糖菓子の如くどろどろに溶かしていった。
――故に、気付くことが出来なかった。ツヴァイが、この寝室へ足を踏み入れていたということに。

「フィリップ、貴方は一体ここで何をしているんです」

氷のように冷たく鋭い言葉が、容赦なく火照った肉体を突き刺した。
だが、それでも熱は冷めなかった。むしろツヴァイの眼差し、そして声音で貫かれたその瞬間、全身が歓喜に震えたのだ。

「あ、これは……その……」

しどろもどろに、視線が彷徨う。

「それは今からクリーニングに出そうと思っていた私の衣服なのですが?」

つかつかと、容赦のない足取りで歩み寄りながら相も変わらずツヴァイは冷たく言い放つ。
間近に迫った氷の表情からは、なんの喜怒哀楽も窺えなかった。
残り香に性的興奮を覚え、ひとり熱を持て余している云わば自身の「分身」に対し、失望しているのか、呆れているのか、はたまた愉悦を感じているのか――。
計りかねていたその時、唐突に伸びてきた指先にスラックスを緩められてしまった。
手早くベルトを抜き去られ、声をあげる暇もないまま下着の中から興奮の兆しを見せ始めている自身をあっとと今に引きずり出される。
あろうことかツヴァイはそれを、絹手袋を嵌めたままの手で容赦なく扱き始めたのだ。

「ああ、っ……! 兄さん……」

滑らかな布地が幹を滑るたび、漠然と全身を包んでいた劣情がはっきりとした形を成して膨らむような錯覚をおぼえる。
他人の目には晒すまいと内に秘め続けていた煩悩が無理やり引きずり出されるような背徳感に背筋がぶるりと震えてしまう。
「はしたない人ですね。貴方は残り香だけでここを硬く勃起させるなんて……」
突き付けられる声音は凍える程に冷え切っていたというのに、どうしてそれらを浴びる度、身体の芯から燃え上がるような情欲が湧きだしてくるのだろう。
フィリップはその頬に朱を走らせながら、溺れる者が如くはくはくと浅い呼吸を繰り返し、与えられる不埒な感覚にただ身悶えることしか出来ないでいた。

「ほら、もう亀頭が悦びの涙を零していますよ。扱かれるだけで気持ちが良いのですか?」
「あ、うう……ッ、ああ……っ」
「まあ、答えは聞かなくても分かります。私の手コキに合わせて腰が揺れていますからね。まったく、血を分けた弟がこんなにも単純なおチンポの持ち主だなんて……。兄として恥ずかしい限りです」

言いながらも、ツヴァイは愛撫の手を緩めようとはしなかった。
なんの感情も窺えない氷の表情、そして口調からはとても想像がつかないような、愚直に快楽だけを与えんとするその手簡は実に淫猥だ。なにより、叩きつけられる詰り言葉の数々がフィリップの肉体を大いに悦ばせていた。
形良く整った薄い唇から吐き出される下品な単語の数々が鼓膜に滑り込むたび、皮膚の薄い下腹がひくひくと痙攣するのが分かる。
同時に、フィリップは頭の片隅で思った。この背徳と熱を、ツヴァイにも分け与えてやりたい――と。

「兄さん……っ、兄さん……ッ」

気が付けばフィリップも相手の下肢に手を伸ばし、未だ頭を垂れたままでいるツヴァイ自身を下着の中から引きずり出していた。

「……呆れた人ですね。自分のだけに飽き足らず、私のモノまで求めるのですか?」

零れたのは、嘲笑である。しかし、抵抗はなかった。

「いいでしょう、許してあげます。その代わり、教えて頂けますか」
「あ、ァ……?」
「私の匂いを嗅ぎながら、貴方はなにを想像していたんです?」

ふと寄せられた唇が、ぴちゃりと音をたてながら赤く染まったフィリップの耳朶に絡みつく。

「どうせこの泣き虫なおチンポを私のアナルで扱くことばかり考えていたのでしょう。奥まで挿入して、種付けして、私を自分のもにしてしまいたいと妄想していたのではないですか?」
「ン、ちが……。違うんです……っ」
「違わないでしょう」

ぴしゃりと言葉が叩きつけられたその瞬間、まるで返答を示すかの如く絹手袋の中でフィリップ自身が跳ねるように痙攣した。

「貴方は、淫乱です」
「僕は……っ、淫乱……?」
「ええ、どうしようもない淫乱ですよ。ほら、私に指摘される度、亀頭がビクビク震えて嬉し涙を流しているじゃないですか」
「あ……♡ そんなに強く握らないで……っ」

縋るような視線を向けると、ツヴァイの双眸がふと細められる。
それは微笑か、それとも侮蔑か。判断はつかなかったが、まるで彼は救いを差し伸べるかの如くその端正な顔立ちを再びこちらへと寄せ、赤く染まったフィリップの耳朶に今度はつぷりと犬歯を軽く沈ませた。
瞬間、流れ込んできた甘い吐息が鼓膜へと吹き込んでくる。それは、ただの吐息ではない――心身を堕落させる魅了の魔法が含まれていた。

「ああ……っ、ァ、うう……♡」

爪先から駆け上がる情欲のパルスは、ほとんど劇薬に近かった。
膝がガクガクと震え始める。ツヴァイ自身を握り込んだ掌が汗ばむ。涙が溢れ、逃がしきれない快楽に悶えて何度も腰を捩らせてしまう。

「仕方のない人だ、そんなに腰をへこへこと揺らして……。分別のつかない発情期のオス犬と大差がありませんね」

そんな蔑みさえ、投げかけられるたびに硬く勃起したペニスを甘く刺激する。

「ほら、貴方のその堪え性のないおチンポと私のペニスを一緒に扱いて差し上げましょう」

そう言って、ツヴァイは絹手袋を纏ったままの指先で二人分の男性器をまとめて握り込んだ。

「ン、兄さん……っ! 熱い、兄さんの……ッ、熱いです……」

血管が浮き上がるほどに怒張した自身の幹にツヴァイの亀頭が擦れるたび、フィリップは灼熱に触れたような錯覚に陥っていた。
その涼しげな眼差しからはとても造像がつかないほど、いつの間にか彼も欲望を滾らせていたのだ。

「ああ、本当にだらしがない……。ここからも物欲しげに涎が垂れていますよ」

だらしなく開いた口端からは、ツヴァイの指摘通り、一筋の唾液が伝い落ちていた。あろうことか彼はというと、その唾液をまるで猫が毛づくろいをするかの如く、自身の舌先で随分と丹念に拭い始めたのだった。

「んん、兄さ……♡」

皮膚の上を滑る艶めかしい感触が堪らない。そして弾む互いの呼吸、熱い吐息が混じり合い、唇を湿らせていく様も実に官能的だった。

「ン、ふ……っ」

またしてもツヴァイの瞳が微かに眇められる。
そんな表情の些細な変化を目の当たりにした次の瞬間、気が付けば唇を塞がれていた。

「んう、ン……ッ♡」

薄く控えめな造形の唇に反し、口腔へと差し込まれたツヴァイの舌は思わず食んでしまいたくなるほどに肉厚だった。
歯列を辿り、上顎を突くそれはもしかすると、フィリップを悦楽の淵へ追いつめる為に煩悩から生まれた、独自に意思を持った生き物なのではないだろうか、と。
被害妄想に取り憑かれ、理性が掻き消える。

「あっ、だめ……! イキます、はしたない白いの、いっぱい出ちゃいます……っ♡」

瞬間、絹手袋の中で爆ぜた白濁はフィリップの幹のみならず、あまり使い込んでいないことがありありと分かる色素の薄いツヴァイ自身をも派手に濡らした。

「ッ、は……」

同時に触れあった亀頭の先からどぷりと吐き出されたのは、ツヴァイの精巣から溢れ零れた快楽の証であった。
互いの欲望にまみれ滴る二つの肉棒は、未だ悦楽を欲し、その先端を物欲しげに震わせている。

「ン、あ……。兄さん、ドロドロで気持ちがいい、です……」

うっとりと呟いたその瞬間、前触れなく突然、身体がふわりと浮き上がった。
それがツヴァイの唱えた浮遊の魔法であると気付く暇もなく、フィリップは皴一つなかったはずのシーツ上へと投げ出されてしまう。 

「まったく、情けない人だ。一度の絶頂ではまだまだ足りないとおチンポの先がビクビク跳ねていますよ。みっともない……」

言いながらも、彼の表情はどこか満足げである。
愉快そうにその口端を歪めながら、ツヴァイはゆっくりとベッドに乗り上げ、尊大な態度のままフィリップの腰を跨いで膝を立てた。
続けざま、徐に自身のスラックスを脱ぎ捨て――。

「ああっ、入ってる……! 兄さんのナカに、入ってる……♡」

慣らした様子はなかったというのに、どうしてだかツヴァイの直腸内はまるでフィリップを待ち受けていたかのように妖しく蠢き、悦ぶように突き入れられた楔を締め付けた。
思わず反射的に自らへと伸し掛かるツヴァイの腰を抱こうと手を伸ばしたのだが、指先がくびれへと辿り着くその手前、フィリップの手首は拘束の魔法によって頭上へと縫い留められてしまう。

「貴方はただそこにそうやって寝ていなさい。そして、馬鹿みたいに腰を振って、私の中で果てればいい」

語尾と共に繰り出された律動は、悦楽と呼ぶにはあまりにも刺激が強すぎるものであった。
うねる粘膜に包まれ、自身を根元から先端まで容赦なく扱かれる。

「ン……っ、分かりますか? 貴方のみっともなく膨れ上がった亀頭が私の前立腺と下品な音を立てながらキスしているのが」

キスと称するには、あまりにも生々しいその水音は、ツヴァイが腰を上下させるたびに結合部から溢れ零れていた。
蠢く襞に包まれ、淫らに扱かれる感覚は、もはや悦楽なのか苦痛なのか、判別もつかない。

「んああ……♡ 兄さん、おかしくなる……っ、僕のおチンチンが、おかしくなってしまいそうです……!」

興奮の為か、痛いほどに膨れ上がった亀頭が硬くしこったツヴァイの前立腺を小突けば小突くほど、下肢に重たい熱が籠っていくようだった。

「この、淫乱が……っ」

悦に浸った甘い声音が、ぐずぐずに蕩けたフィリップの肉体を容赦なく詰る。

「出したいのでしょう。挿れたばかりだというのに、私のナカへザーメンを注ぎたくて仕方がないのでしょう?」
「う、あ……ッ、はああ……っ」
「ほら、貴方のおチンポは出したいと言っていますよ。根元をこんなにもビクビクと震わせて、私の一番奥に種付けするつもりですね」
「ン、は……っ、だめ♡ ダメです、兄さ……!」
「堪え性のない人ですね。このままだと、ガマン汁だけで私の腹をいっぱいにするつもりですか?」

浴びせられる淫らな言葉の数々が、霞掛かった脳内で絶えずリフレインする。そのたびに、ツヴァイから齎された呪縛が全身に染み込んでいくような錯覚に襲われ、自然と目尻に涙が浮かんだ。
それは与えられる恥辱に耐えかねてのことなのか、それとも肉体ごとツヴァイに支配される悦びなのか、判別はつかない。

「あああ……っ、はァ、あああ!」

思考の中で反芻する下卑た言葉と、ツヴァイの嘲笑。
そそり立った欲望を包む粘膜が一段と激しく収縮をしたその瞬間、ほとんど泣き叫ぶような声をあげながらフィリップは絶頂を迎えていた。
どくどくと、睾丸に溜め込んでいた精子が内壁の蠢きに合わせて迸るのが分かる。尾を引く熱と一気に押し寄せた喪失感が心地よかった。

「あ、う……♡」

薄く開いた唇の端から、だらりと唾液が伝い落ちる。
全身の力が入らない。射精と共に筋肉が融解してしまったのではないだろうかと頭の片隅でぼんやりと思いながら瞳を伏せかけた、その時だった。

「……まだまだ、いけるでしょう?」

頬を微かに上気させたツヴァイが頭上でほくそ笑む。
それと同時に襲い掛かってきたのは、先ほどよりも更に激しい律動だった。

「ああっ、兄さん……♡ どうして……っ」
「貴方が溜め込んだザーメンは、今夜一晩かけてすべて搾り取ってあげますから、覚悟なさい」

萎れかけていた熱を再び生暖かい粘膜で強く締め付けられ、失ったはずの悦楽と背徳が自由の利かない下肢へとぶり返す。

「ン、ああ……♡」

脱力も束の間、気が付けばフィリップはツヴァイによって齎される律動に促されるかの如く、微熱の纏わりついたままの腰を再びはしたなく揺らし始めたのであった。