ドライオーガズムを教え込まれて翌朝勝手に身体が反応する受

こだわりコースより御依頼

頂いたご依頼内容
オリジナルキャラクターのメスイキ物

カーテンから細く差し込んできた眩しい陽光が、ヘンリー の意識を泥のような眠りから覚醒へと引き上げる。実に爽やかな目覚めであった。

「――アレン」

ゆっくりと身を起こしながらすぐ隣でその身を共に横たえていたであろう、恋仲の男に呼びかけてはみたが、返事はない。
見下ろせば、彼はヘンリー と同じく一糸纏わぬ姿のまま、未だ微睡の中で心身を休ませている様子であった。
なんて事のない、常と変わらぬ朝の光景。昨晩、このベッド上で繰り広げられたあまりにも情熱的で淫靡な情交の名残などすっかり消え失せてしまった明るい部屋の中、ヘンリー は半身を起こしたまま、しばしぼんやりと愛しい男の寝顔を見下ろしていた。
日中は一つに纏められているブロンドの長髪は多少寝乱れてはいたものの、朝の陽光を受け、まるで上質なシルクの如く滑らかな光を仄かに放ち、ヘンリー の視線、そして心を瞬時に惹きつけて離さない。
勿論、彼の見目だけを気に入って関係を持った訳ではなかったが、美しい造形に関心を奪われる様は世の摂理と言っても過言ではない。
寝覚めた直後、まず視界にそんな美しい男の姿を毎日取り入れることが出来る日常は、ヘンリー にとって実に幸福なことであり、その反面、いつ訪れるとも分からない終焉と破綻に不安を覚えて僅かばかり切なくもなるのであった。
が、しかし。他人の心身を惹きつけ視線を奪うほどの美しさに満たされた彼、アレンはひとたび夜の帷を纏えば、その様相を一変させる。
特にベッドの上、煩悩も劣情も剥き出しにしながらこちらを組み敷く彼の姿は、ほとんど獣に近い。その全身から滲み出るのは、相手を支配してしまいたいというサディスティックな欲望と、どろりとした粘度の強い胸焼けを覚える程の強烈な愛情だ。
勿論、それなりの加減や気遣いはある。だが、太陽の元では決して拝むことが出来ないであろう、硬い殻――否、化けの皮と称するに相応しい仮面をひとたび外すと、彼はその内側に秘めた狂気に近い「なにか」をちらりと覗かせ、あっという間にヘンリー の心身をその理性ごと、いとも簡単に篭絡してしまうのだ。
昨夜など、ドライオーガズムなるものをヘンリー に仕込みたいと言って、射精を伴わぬ絶頂を迎えるまで幾度となく最奥を貫かれ、もう止めてくれと泣き縋っても彼は柔い言葉でこちらを宥めながら、しかし施す愛撫は残酷なまでに鋭く尖らせ、悦楽を半ば永続的に与え続けたのである。
射精を伴わぬ絶頂は、女性の特権だ――と。アレンは語り、同様にヘンリー もまたその意見には同意していた。
白濁を吐き出すという悦楽の証を実に分かりやすく正直に示してしまう男に対して女はというと、その体内にて渦巻く快感の強烈さは本人のみぞ知る形無き絶頂故、実に神秘的な現象なのだとアレンは情事の最中、詩人のような口調で詠い、そして誘ったのだ。
そんな神秘を君にも与えてみたいのだ、と言って。

「……っ、ん」

そんな激しい情事の様子をぼんやりと思い出していたその瞬間、ずくりと下腹が疼くような不埒な感触がなんの前触れもなくヘンリー の体内へと発現した。
まるでそれは、男の自分にはあるはずのない、女性特有の生殖器官が子種を求めて物欲しげに収縮しているような、実に淫らな感覚だった。
男に生まれたならば誰しもが毎日のように経験するであろう、夜間勃起現象――所謂「朝勃ち」とはまた別種の未知なる性的興奮が渦巻き湧き起こるその様は、爽やかな朝には不釣り合いな、浅ましい欲求をヘンリー の全身へと齎したと共に、戸惑い、そして僅かな恐怖も同時に呼び起こしていた。

「……ッ、は……!」

反射的に爪先へと力を込め、視界を閉ざすことで不本意な劣情をやり過ごそうと試みるが――止まらなかった。
あれから一晩が経ったというのに、今は誰もこの身に触れてはいないのに、ヘンリー の肌や神経、臓器や細胞に至るすべてが昨夜の絶頂がぶり返したかの如く震え、しとどに濡れていた。
このままでは、いけない。このような浅ましくだらしのない姿を彼に晒すわけにはいかないとヘンリー はとりあえずベッドを抜け出すべく身を捩ったのだが、不意に伸びてきた長くしなやかな五指に手首を引かれて瞠目する。

「アレン……!」
「つれないな、ヘンリー 。そんな熱を持て余した身体を引きずって、一体どこへ行くつもりだい?」

いつから目を覚ましていたのだろう、未だシーツの波にその身を横たえつつも伸ばした腕でヘンリー を引き留めるアレンの姿がそこにはあった。

「っ、離してくれ……。アレン、君にこんな姿を見せたくないんだ」

誰の介入も気にする事のない、宵闇の中でならば淫らに蕩けた肉体を曝すことに後ろめたさや躊躇はなかったが、カーテンで多少は遮られているとはいえ街を完全に覚醒させる力強い朝陽の元、苦悶する己の身体を検められるのはあまりにも気恥ずかしく、屈辱的でもある。

「……しばらく、そっとしておいて欲しい」

震えの止まらない自身を両腕で庇うように抱きながら、ヘンリー は呟き、尚もベッドから抜け出そうと身を捩る。
が、しかし。意に反して世界はぐるりと反転を始め、気がつけば寝乱れた髪のまま、妖しく微笑むアレンの視線にヘンリー は見下ろされていた。どうやら彼によってシーツの海へと沈められてしまったらしい。

「そっとしておける訳がないだろう。私は君がそうやって快楽の余韻に震える様を見たかった。尾を引く余韻の中で溺れる君をね」

瞬間、頬が熱を持つ。まさか、彼がこの身体に極めて女性的な絶頂を教え込んだのは、夜が明けても尚、悦楽の名残に震える浅ましい自分を楽しむためだったとは。

「……あまり良い趣味ではないと思うよ、アレン」

半ば呆れたような思いで嘆息したヘンリー であったが――しかし、今はなによりも、身体が熱くて仕方がなかった。
気を抜けば、性的欲求にたちまち思考を支配され、今すぐにでもアレンの熱をはしたなく求めてしまいそうで、忍びない。
肉体のみならず、心まで女々しく作り替えられてしまったのかとヘンリー は密かに歯噛みしたが、どうしてだか、口惜しさこそ多少はあれど、嫌悪だとか後悔といった不快感は不思議となかった。

「趣味が良いとか悪いとか、そんな事はどうでもいいんだ。傲慢な言い方になってしまうけど、私が求めているか否か――たったそれだけの、単純な話さ。一方的に君をこうして巻き込んでしまった事に関しては、少しだけ悪いと思っているけどね」

言いながら軽く肩を竦めてみせたアレンの姿を目の当たりにして、今にも沸騰しそうなほどに煮えたぎる思考の中、ヘンリー は「ああ、これが惚れた弱みというやつなのか」とぼんやり実感し、納得する。
そして、こうも考えてしまうのだ。彼に微かな後ろめたさを抱かせるような劣情を植え付け、半ばその理性を支配しつつあるのではないかとも。
ヘンリー の痴態を求め、薄皮を剥くように常識や道徳といった、人として生きるにあたって備えていなければならないものを一枚ずつ削り取っていくような、奇妙な背徳感がいま、煩悩を満たしていた。
先ほどはアレンをサディスティックであると形容したが、ヘンリー 自身もまた、抱かれる身でありながら嗜虐性を持っているのかもしれない。
自分が目の前の男に非常識な行動を取らせてしまっているという背徳の裏に潜んだ悦びと奇妙な達成感は、まさにエゴイズムだ。
果たして、彼はそれに気が付いているのだろうか。否、気付かぬはずもない。故にアレンは性交の最中、取り繕うこともなく興奮を露わにするのだろう。自身の望みと、相手の要求が同じであるという確信があるからこそ、夜毎に二人の関係は深まるのだ。

「さて、ヘンリー 。そのままだと、デスクへ向かうどころか朝食を摂ることさえ難しいと思うけど?」

ふいに降りてきた唇が耳朶を掠め、熱を孕んだ蕩けた声音が濡れた吐息と共に鼓膜へと吹き込まれる。

「せめて、その余韻を取り除く事くらいはさせて欲しいな。そんな貌をした君を、外へ出すわけにはいかないからね」

その言葉の裏側に滲む劣情が象る欲求は、恐らくこうだ。
願わくば、もう二度とこの部屋の中――否、ベッドの上から逃がしたくはない。自惚れでもなんでもなく、彼がそんな願望を密やかに夢想している事を、ヘンリー は何となく察してしまった。
そして再び湧き起こる、嗜虐心。彼の執着は、自身の欲望だ。アレンが薄絹のヴェールで覆い隠そうとする剥き出しの本心こそ、ヘンリー の望んだものと限りなく等しい愛情である、と。
つまりは自身も、こうなることを求めていたのだ。こびりついてなかなか離れない強烈な余韻によって昼夜の区別なく欲情を覚えるような肉体を手に入れて、物理的には届かない更なる奥の奥まで支配される為に。そして、支配する為に。

「……僕も、君には責任を取ってもらわなくちゃね」

悦楽によって掠れた声音でヘンリー が囁くと同時、美しい弧を描いていた形良い彼の唇がゆっくりと近づき、そして触れた。
粘膜同士を擦り合わせ、軽く食み、更なる深い繋がりを求めて角度を徐々に変えていくその口付けは、陽光の元で交わすにはあまりにも濃厚で、あまりにも情熱的である。
ほどなくして口腔に滑り込んできた舌先も、驚くほどに熱かった。
見惚れる程に美しいアレンの寝姿が隣に在りながらも、低血圧ゆえに朝は常ならば気怠く憂鬱な気分に陥る事の方が圧倒的に多いはずなのだが、ドライオーガズムの残滓、云わば情事の余熱のようなもののせいか、今日ばかりは既に肌が汗ばむほど体温が高い。
セックスの本質は、繁殖行為だ。同性とはいえ、命を創造する儀式はやはり健康に影響を及ぼすのかと、頭の片隅で実に馬鹿馬鹿しい説を唱えていた、次の瞬間。

「っ、あああ!」

思考は、興奮一色に塗り替えられてしまった。

「後始末に抜かりはなかったはずだけど……。ヘンリー の此処は、未だに柔らかいままだね」

いつの間に潜り込んでいたのだろうか、口付けの合間に長い指先で窄みの奥、未だ喪われる気配のない昨晩の余韻によって妖しく蠢いていた内壁を掻きまわされ、ヘンリー は嬌声を大きくあげながら思わず喉を大きく反らした。
その上、舌先にて性感帯である口腔内――それも、ひときわ敏感である上顎の辺りを執拗に弄られ、早くも下腹の辺りがぴくぴくと細かい痙攣を始めている。

「まずはこのまま、キスと指だけで気持ち良くなってみる?」

昨夜、未知なる快感を散々と仕込まれたのだ。恐らくは挿入を果たさずとも、絶頂を迎えられる素養は十分にあるだろう。
だが、ウィークポイントである口腔、そして人差し指をたった一本、受け入れているだけの状態にも関わらず激しく喜悦の収縮を繰り返す内壁へと惜しみない愛撫を与えられても尚、ヘンリー の全身を支配する淫らな欲求は充足するどころか、際限なく肥大していくようだった。

「あ、ンンン! ふ、ァ……っ」

快感が膨らめば膨らむほどに怒涛の飢餓が押し寄せ、ヘンリー の喉を焼く。堪え切れず、自らも必死に舌を伸ばして更なる悦楽を拾うべく唾液が口端から零れる事も構わず激しい口付けに没頭したが、どうやら逆効果のようだ。

「だめ、アレン……!」

こみ上げる絶頂、押し寄せる不足のもどかしさ。
満たされているのか、いないのか。相反する感覚に心身を乱され続けたまま、ヘンリー はアレンと深く唇を重ね合わせたまま、下腹を胎動のように大きく震わせながら射精を伴わぬ頂きへと昇り詰める。

「あああっ、は……! ン、あああああっ」

何かが弾け、何かが迸る。だが、ヘンリー 自身はというと度重なる愛撫にて頭をむくりと擡げてはいたものの、未だ硬度を保ったまま、そこには先走りの雫すら滲んでいなかった。
つまり、再びドライオーガズムにて絶頂を迎えることに成功したのだ。放出も何もない、ただ己の体感でのみ味わう悦び――。
即ち、それは果てのない探求の始まりなのだ。射精という明確な終わりを見失ったこの身体は、一体どこに辿り着けば良いというのだろう。今まで自分と関係を持った女たちも、現在のヘンリー と同様に終わりなき悦楽の余韻を引きずり、今も尚、火照った身体を持て余したまま空虚を泳ぎ続けているというのか。
――否、恐らくは女の場合、どこかで上手く折り合いをつける事が出来るのだろう。彼女たちにとってドライオーガズムは当たり前の快感なのだから、本能的にコントロールする術が誰に教わるでもなく予め備わっているに違いない。
だが、自分はどうなる? 男として生まれ、本来であれば精液を吐き出す事で情事に区切りをつける自分が後天的に女性的な絶頂を味わった場合、一体この身体をどう扱えば良いと言うのか?
故にヘンリー は今朝、不可解な熱に襲われたのだ。対処法もろくに知らぬまま、与えられた悦楽を貪るだけ貪り、本能のままに求めた云わば罰のように、性的興奮が全身にこびりついて離れなくなってしまっている。

「いま、達しただろう? それなのに、物足りなさそうだね」

窄みの中から引き抜かれた指先が、未だ物欲しげに痙攣を繰り返しているヘンリー の下腹をつうっと辿る。

「あっ、はァ……っ」

そんな些細な仕草ですら、今のヘンリー にとっては身を焦がすほどの強烈な愛撫であった。
肌が触れあうだけで、視線が交わるだけで、全身が粟立ち爪先も跳ね踊る。例の飢餓感は少しも和らぐことはない。
なにを求めている? 自分は、一体なにを?
自問自答を繰り返しながら、ヘンリー は熱の捌け口を失った身をもどかしげに小さく捩り、やがてはその眦に涙さえ滲ませて幼子のように四肢を丸めてしまうのであった。

「……どうしたの、ヘンリー 」

ドライオーガズムの刺激が強すぎてさすがに疲れてしまったのかとこちらを気遣うアレンに対し、ヘンリー は首を緩く振りながら力なく瞼を閉じる。

「これ以上は……。だめ、だから……っ」

触れられれば、触れられるほどに欲しくなる。
欲求は果てなく膨らみ、やがてはどのような愛撫を施そうとも満足感を得られることなど無くなってしまうのではと不安さえ抱いてしまう。故に、今は絶頂が恐ろしかった。
快楽の証明ともなる「射精」を完全に失ってしまったら、もう二度と戻れなくなってしまいそうで、怖かったのだ。
先ほどまでは彼の手によって半ば女のような肉体に作り替えられてしまった自身に酔い痴れていたというのに、いざ雄の本能が失われそうになったその途端、情けなくもヘンリー の心は挫け、持て余した悦楽、そして本質の見えない欲求へと無様にも頭から飲み込まれてしまう。

「君の、言う通りなんだ……」
「ヘンリー ?」
「物足りないんだ、アレン。もっともっと、欲しくて……。けど、このままじゃ僕はどれだけ君に愛されても足りない気がして、どうにかなりそうなんだよ……!」

叫ぶように吐露したその瞬間、更なる悦楽を求めてより激しく収縮を繰り返していた内壁の襞を柔く裂きながら、煮えたぎる楔が深く深く打ち込まれた。

「ン、ああああっ」

自身の内側にアレンが潜り込んできたのだと理解したのは、数拍置いた後の事である。

「……愛しがいのある男だね、君は」

堪え切れぬ興奮を滲ませた低音が、微苦笑を織り交ぜながら熱い吐息交じりにそう囁いた。

「それなら、溢れるくらいに私の愛情を注げばいい」

穿つというよりも馴染ませるような緩い律動を刻みながら、再びアレンは指先にて痙攣を続けるヘンリー の腹を辿り、時折くすぐるように爪を悪戯に立てて薄い皮膚の感触を楽しんでいる。

「この腹いっぱいに私を注いだら、君もようやく満たされるかな」
「あっ、ン! は、ア……っ」
「けれど、本当は満たしてしまいたくないのかもしれない。だって、君を満足させたら、そこですべてが終わってしまうだろう」

腹八分目とはよく言ったものだとアレンは小さく笑いながら、ゆっくりその腰を引いたかと思うと今度は突き刺すような仕草で最奥まで一気に貫き、こちらの呼吸さえ奪うような激しさを以て蹂躙を開始した。
はしたない水音をたてて粘膜の内側を擦られるたび、息が詰まる。
より強烈にこみ上げるのは、羞恥かそれとも恍惚か。蕩け切った思考では判別がつかなかったものの、途端に飢餓感が解消されたような、形容しがたい充足が稲妻のように鋭い悦楽と共に爪先から駆け上がってくるのが分かる。

「君も、気付いているはずだ」
「あ、んん……っ、はぁ……ッ、なにを……?」

揺さぶられながら、ヘンリー はほとんど無意識に問答へと応じている。

「君と私が求めるものは、きっと同じであることを。だから――」

だから、自身も物足りなさを感じているのだと。
アレンは囁き、シーツに沈んだ汗ばむヘンリー の細い背を力強く抱き込んだ。

「君にドライオーガズムを教え込んだのも、その物足りなさを埋める為だったんだよ。どうすれば君をもっと乱れさせることが出来るのかって、ずっと考えていた」

うっとりと囁いたアレンの声音に潜んでいたのは、濃厚な恋慕で覆い隠した一種の狂気だった。それを耳にした瞬間、あれほどまでに飢えていた心が、身体が、満たされていくような感覚に陥る。
ああ、自分が求めていたものはこれだったのか、と。改めて思い知らされ、途端に解放的な気分にもなった。
欲望のままに求め合う無節操な行為は、触れることさえ許されない禁断の果実に齧り付いてしまったかのような、もしくはパンドラの箱を開いてその中身を覗き込んでしまったような、背徳の興奮に満ちていた。

「……っ、ヘンリー ……」

律動の激しさが増していくのと同時、アレンの呼吸も徐々に乱れ、それこそ本能のままに生きることしか出来ない獣のように人間としての道徳や建前を一つ二つとかなぐり捨てていく。

「あ、あ……! ン、んんっ」
「ッ、は……。ヘンリー 、私に見せてくれ……」

耳朶に舌を絡めながら、ほとんど吐息のような掠れた声でアレンは強請り、穿たれた楔を引き込むようにして蠢く粘膜の更に奥の奥、結腸へと届いてしまいそうなほどに深い場所まで抉るような仕草で突き上げた。

「ずっとその身体に溜め込んだ君の快楽を――。今度は目に見える形で、証明して見せてくれ」

つまり彼は、射精を要求しているのだと一拍後で悟ったその途端、もはや失われてしまったかと思われた迸りが自身の根元から急激に込み上げるのを確かに感じた。
だが、その込み上げる射精感は男性的な欲求というよりは、女性が自ら愛液を分泌し蜜壺へと滲ませるような、奇妙な倒錯感を伴ってヘンリー の神経を高ぶらせていく。普段とは違う絶頂を覚えた事による副作用だろうか。しかし、悪くない。女性的な達し方を学ぶ事で、より一層、快楽に敏感な反応を示す肉体になったような気がして、戸惑う反面、強烈なまでに恋人の体温や刺激を味わえる現状にとてつもない喜びを見出していた。

「ああ、ヘンリー ……。此処が濡れてきているよ。ほら、分かるだろう? こんなにも……」

律動を繰り返すアレンの腹に擦られていたヘンリー の熱は、まるで堰を切ったかのように先走りの雫をとめどなく零し、ようやく射精を許されたことに歓喜して咽び泣いている。

「アレン……! もう、我慢できな……っ」
「ふふ、我慢なんて……。する必要はないさ……っ、はぁ……。私もそろそろ限界のようだから、一緒に昇ろう」

ふと伸びてきた例のしなやかな五指の腹が、ヘンリー の聳り立つ欲望、物欲しげにその口を開閉している先端へぐり、と押し付けられた。同時に、肌と肌のぶつかる瑞々しい衝撃音が室内に響き渡ったかと思うと、電流によく似た悦楽のパルスが爪先からびりびりと肌を震わせながら一気に駆け上がり、五感のすべて――否、もしかすると未知なる六感すら丸ごと包み込んで目眩を覚えるほどの絶頂、そして吐精感を互いに齎した。

「ああああっ、ン……! ァあああっ」
「……っ、はぁ……。く、う!」

熱く爛れた粘膜の内側へと、奔流が傾れ込むのを腹の内側で感じ取る。同時に、まるで粗相でもしてしまったかのような焦燥を伴う喪失感と解放感が怒涛の勢いで押し寄せた為、それに耐えるかの如くヘンリー は自身に覆い被さった男の汗ばんだ背を思い切り抱き込み、その腕の中でしばし陸へと打ち上げられた白魚のように痙攣をびくりびくりと繰り返していた。

「あっ、はぁ……。ン、んん……」

限界まで肺を膨らませ、そして一気に萎ませるような深呼吸を幾度か繰り返した後、少しずつではあるが心身を支配していた淫らな膜のようなものが薄れ、崩れ掛けていた理性がその形を徐々に取り戻していくのが分かる。
どうやらそれは、彼も同様の様子であった。
しばらくは互いに呼吸を荒げたまま、言葉を交わす余裕さえ持たずにひたすら興奮の余韻が収まるのを待つ。

「っ、はぁ……。は……ッ、参ったな。ほとんど寝起きだっていうのに、少しばかり張り切り過ぎた」

未だ色欲の名残が強く滲んだままの表情でアレンは苦笑を浮かべた後、自身の熱をヘンリー の体内に残したまま、こちらの胸元へと半ばぐったりとした様子で倒れ込んでくる。
彼が身じろぐたびに、じんと痺れるような仄かな刺激が火花のように小さく幾つか弾けたものの、徐々にそれが硬度を失い萎れつつあるお陰か、起き抜けの際に感じたような下腹の疼きがぶり返す事はなかった。
――いつまで、そうしていただろう。時折、子猫がじゃれ合うような稚拙で軽い口付けを幾度も繰り返しているうち、窓から差し込む陽光は更にその明るさを増し、人々や車両の往来も多くなってきたのか、実に平穏な朝の喧噪が薄い窓ガラス越しに漏れ聞こえ始めていた。
恐らくはこれから勤め先に向かうのだろう、足早にアスファルトを駆けていく革靴の音。ゴミ出しに乗じて世間話に花を咲かせる中年女性たちの笑い声、そして渋滞に巻き込まれでもしているのだろうか、苛立った気配を隠し切れないクラクションと急いたエンジン音。それらは室内を未練がましく漂う淫靡な名残をたちまち飲み込んで、一日の始まりを力強く主張していた。

「……今日は、このままずっとこうしていたい気分だ」

しっとりと汗に濡れた瑞々しい頬をヘンリー の胸に軽く擦り寄せながら、彼はぽつりと小さく呟く。

「これが夜更けだったら、二人して眠ることも出来たのに……」

まるで登校を嫌がってぐずる子供のように軽く不貞腐れた様子のアレンに、ヘンリー は思わず笑い声を零してしまった。

「ふふ、そうだね。いつもなら君とこうして寄り添ったまま夢の世界に出掛けていたけれど……。僕たちは立派な社会人として、これから勤勉に働かなくちゃならない」

体内にずっと燻っていた焔を、ようやく放出した事によって幾分かすっきりした身体と思考は、途端に現実的なものへと切り替わる。
さて、今日のスケジュールはどういう流れだっただろう。確かテレビ番組への出演予定はなかったはずだ。が、しかし。近々、放送が控えている大型討論番組の打ち合わせに向かわなければいけなかった事を思い出す。となると、何時までに自宅を発てば遅れることなく局へ向かう事が出来るのか。そして帰宅は何時ごろになるのだろうか。夕食は外食で済ませるべきか、それとも帰りしなにスーパーかどこかで食材を買い込んで、自宅にてアレンと共に食卓を囲むべきか――。
つい今しがたまで、身も焦がすような情欲に溺れていたというのに随分な変わりようである。男なら誰しもが経験したであろう、白濁を吐き出したその瞬間、蕩けていた何もかもが形を取り戻して心身がクリアになる、あの感覚が恐らくは原因なのだろう。
所謂「不応期」というやつだ。精を吐き出したその瞬間から、急激に性欲が失われるというあまりにも単純で残酷な男性独自の現象で、曰く、射精時に分泌されるホルモンがそれを引き起こす要因となっているらしい。
故にドライオーガズムは射精を伴わないが故にホルモンの分泌が遮られ、いつまでも性欲が体内に燻り続けるのだろう。夜が明けても尚、ヘンリー が身悶えていた原因はやはりそこにあったのだ。
実に興味深い人体の不思議だと妙な関心を覚えた後、さていい加減に支度を整えなくてはとヘンリー は自ら腰を引いてその体内から未だ残されたままであったアレンの、すっかり凶暴さを失った柔い仄かな熱を抜き去った。

「ン、う……っ」

瞬間、内股をどろりと何かが伝う。それが彼の吐き出した残滓だと気付いたその瞬間、思わず頬を赤らめずにはいられなかった。
性欲の方はすっかり冷めてしまったが、かと言って羞恥心が失われてしまったわけではない。むしろ、平静を取り戻した今だからこそ、激しい情事を物語る数々の痕跡が、こんなにも明るい朝陽の元に照らし出されているという現状に思わず閉口してしまう。兎にも角にも、気恥ずかしくて仕方がなかった。

「……朝食の前に、まずはシャワーかな」

汗や体液に塗れた体を覆い隠すようにしてベッドから剥ぎ取ったシーツへと反射的に包まってしまったヘンリー の様子に愉快そうな微笑を浮かべながら、彼は流した汗の為かしっとりと濡れた長い前髪を掻き上げつつ、おどけたように肩を竦めて揺らしてみせたのである。
――そうして、二人の一日は今日も始まっていく。
日ごとに嵩を増していく愛情と狂気を確かに感じながら、ゆっくりと。そして穏やかに。