無邪気女子×流され女子その2

「忘れ、られないんだ……」

茹でだこの如く真っ赤に染まった頬を両掌で覆い隠しながらそう白状したリナの姿を、アケミは半ば唖然としたような表情で眺めていた。

「だからもっと、アケミに色んなこと……。して、欲しい」

先日、ほとんど出来心で彼女の肉体を弄び、思う存分に堪能してしまった経緯があったのだが、まさかリナの方からその話題を蒸し返してくるとは思いも寄らなかったのだ。
その上、自分の体をもっと開発して欲しいなどと言い出す始末である。
あまりにも自身にとって都合の良すぎる展開に、思わずアケミは自らの右頬を軽く抓り上げてしまった。
ひりひりと皮膚が鋭く痛む感覚は、これが夢などではないという事を証明している。

「……いいの? ホントに?」

少々、赤くなってしまった自らの頬を擦りながら念を押すと、リナは掌で表情を覆い隠したまま、こくりと小さく頷いた。
なんといじらしく、そして愛らしいのだろう。
アケミは感激のあまり、その口元を大いに綻ばせながら羞恥に縮こまる彼女の身体に思わず飛びついてしまう。
あの時のことを忘れられずにいたのは、アケミも同様であった。
むしろ、再び彼女の内側に触れる機会をあの日以来、虎視眈々と窺い続けていたのだ。
その証拠といってはなんだが、アケミの懐には街の商店で入手した秘密の器具――所謂、アダルトグッズが常に忍ばせてある。
肌触りがとてもよく、弾力もそれなりにありながら性器への負担は限りなく少ない柔らかな素材で作り上げられたそれを店頭で見かけた瞬間、これは是非リナの肉体で具合を確かめなければと衝動的に購入してしまったのだが、まさかこんなにも早く使用する機会が訪れる事になるとは、これが棚から牡丹餅というやつだろうかとほくそ笑まずにはいられない。

「大歓迎だよ! 私もリナにずっとずっと触りたかったんだぁ」

歓喜の声を高らかに上げると、ようやく彼女は自らの表情を覆っていた掌を外し、羞恥に染まるその顔をアケミの眼前へと晒してくれた。
赤く色づいた頬も実に煽情的であったが、なによりもアケミを喜ばせたのは、切なく潤んだ二つの瞳だ。
後ろめたさを湛えながらも、性的な興奮や好奇心を隠しきれていない、熱を孕んだ不埒な双眸が映すもの――それは期待と不安、欲情と羞恥。未知なる悦楽への恐怖と期待。様々な感情が綯い交ぜとなり、瞳の中で揺れ動いている。
そして、あのとき味わった熱と興奮を求めているのは自分だけではないのだと暗に語るその様子がとにかく嬉しくて、アケミの全身が悦びに震えた。

「ホラ、今日はこれで遊ぼ?」

言いながらすかさず取り出したのは、件のアダルトグッズであった。
手元のスイッチを押し上げると、それは微かなモーター音を発しながらうねうねと、まるで意思を持った軟体動物かの如くその太い幹を妖げにくねらせ始める。
果たしてリナがこれをアダルトグッズであると認識しているのかどうか、定かではなかったが、卑猥な曲線を描きながらアケミの掌の中でのたうち回るそれに性的な匂いを感じ取ったのだろう。
彼女は戸惑ったように視線を彷徨わせ、誘惑に応えあぐねていた。

「リナ、怖い?」

尋ねると、リナはアケミの顔とその手に握られたアダルトグッズを交互に見やりながら、こくりと小さく頷いてみせる。

「大丈夫、怖くないよ。コレは気持ち良くなるためのオモチャなんだから」
「で、でも……」

不安と期待を湛えた瞳が、より一層の戸惑いを含んで大きく揺れ動く。
あと一押しするべきかとアケミはその身をずいと乗り出し、

「じゃあ、コレを使うとすっごく気持ち良いってコト……。私が証明してあげるね」

赤く染まった耳元で囁くと、潤んだ彼女の双眸が動揺の為か僅かに見開かれた。

「リナが、私を気持ち良くするの」

言いながら、うねり続ける性器を模した玩具の先で、リナの唇をそっと撫で上げる。
瞬間、まるで突き付けられたその卑猥な物体を受け入れるように薄く開いた口腔は、今までに見たどんな表情や仕草より誘惑的であり、淫らであるとアケミはその口端を思わずにやりと吊り上げたのだった。



誘い込んだ寝室にて、遠慮がちに伸し掛かったリナの背中を抱き留めながら、アケミは自ら両脚を大きく開いて間もなく訪れるであろう歓喜の瞬間に備えて力を抜く。

「ほ、ほんとに……。挿れるの?」
「うん。まずは指からね」

他人の性器に自らの指を沈めた経験がないのだろう。
加減が分からないらしい彼女はというと、すっかりその顔を青く染めて蜂蜜に塗れたままの指先を震えさせていた。

「大丈夫、リナは痛くなかったでしょ? おんなじだよ」

前回の情事の際、植え付けた興奮を呼び起こすべく蜂蜜を潤滑油代わりに持ち出して状況の再現を試みたのだが、彼女の方はというとなかなか煮え切らない様子であった。
しかし、ここで挫けるアケミではない。

「ねえ、リナは私のこと気持ち良くしてくれないの?」

断れない性質だと知って、わざと拗ねた物言いで迫る。

「……リナってば、自分だけ気持ち良くなりたいんだ」
「ちっ、違う!」

このような追いつめ方は少々、気の毒な気もするが――しかし、こちらの言動に翻弄される彼女が、愛しくて愛しくて堪らないのだ。
困惑したように眉尻を下げ、唇を震わせているリナの背中を今すぐに抱きしめてやりたい衝動をどうにか堪えつつ、アケミはわざと沈黙を紡ぎ、不機嫌を装いながら反応を窺った。
意図的に作り上げられた重い空気の中、リナはしばらくその口を何かに耐えるかの如く噤んでいたが、ようやく決心がついたのであろう、改めて瓶の底からどろりとした蜂蜜をその指に掬い取り、

「僕だって、アケミのこと……」

気持ち良く出来るから、と。
自信の欠片もない、今にも消え入りそうな声音であったが、彼女は自らの胸に秘めた微かな意思を示すように、その指先をゆっくりアケミの膣内へと遂に沈めていった。

「ん……っ」

ひんやりとした蜂蜜が、生温い粘膜の内側で徐々に溶ける感覚はあまりにも淫靡である。
自らの体温が冷めた粘液と混じり合い蕩ける感触を躊躇いがちな指先でゆっくりと掻き回されたその瞬間、爪先からぞくりと悦楽が駆け上がり、意図せず嬌声が零れ、喉が大きく反れてしまう。

「アケミ、痛い? ごめん、僕こういうのした事なくて……」

不安げな瞳で問いかけられたものの、アケミはすぐに痛みを否定することが出来なかった。

「ン、ぅ……」

リナを待ちわびていたそこは既に、愛液を湛えて濡れていたのだ。
痛みなど、あるはずもない。むしろ、ようやく潜り込んできたその体温を手放すまいと膣圧で強く締め付け、更に奥へと導くべく内側の粘膜を蠢かせてしまう。

「……蜂蜜、きもちいね」

伸し掛かるリナの背中を掻き抱きながら寄せた唇で鼓膜に直接吹き込んでやると、再びその耳朶は朱色を帯び、羞恥と興奮を取り戻した。

「きもち、いいの?」

ぐちゅりと音を立て、先ほどよりも少しばかり大胆に、リナの指先が奥へと沈む。

「ン、いいよ。つめたくて、あつくて……。きもちイイ」

開いた太腿を閉じ、覆い被さったリナの身体を緩く挟み込みながら続きを促すように腰をくねらせると、従順で流されやすい彼女はこちらの思惑通り、性器への愛撫へとのめり込んでいった。
恐らくその手つきは先日、アケミが施した動きの模倣なのだろう。
ゆっくりと、ぎこちないながらもウィークポイントを確実に探り当てようと蠢く指先が心地良くて、微笑ましい。
不器用な抜き差しながらも、それは確実にアケミを、そして施す側であるリナさえも、淫靡の底へと突き落とし、やがて理性は見えなくなった。

「ねえ、これ挿れて……」

そろそろ頃合いだろうかと、アケミは手元に例のアダルトグッズと手繰り寄せると、それを持ち上げ、リナに見せつけるかの如くその先端にちゅっと音をたてながら唇を寄せた。
スライド式の電源を上へ押し上げる度、挿入部分の幹が激しく震えるという仕様なのだが、もちろんリナがそのような玩具の仕組みを理解しているはずもない。
まずは彼女を怖がらせぬよう、スイッチを一段階だけ押し上げた状態で玩具を手渡すと、アケミは熱を湛えた潤んだ瞳で、情事の続きを促した。

「指とおんなじだよ。これをゆっくり、私に挿れるの」
「う、うん……」

掌の中で微かに蠢くそれに多少の畏怖は感じていたのだろうが、指の挿入を果たしたことで免疫はついたのだろう。今度は思ったよりもすんなりとリナは頷くと、玩具の先端を濡れそぼるアケミの膣口へとあてがった。

「あ、ふ……っ」

うねりながら、ゆっくりと。
沈みゆく感触はそれが作り物であるとは到底信じがたいような柔さと蠢きで疼き続ける子宮へとより淫らな振動を与えてくれた。
この快感を、早くリナにも味わわせてやらなければ。
奇妙な使命感に駆られながら、アケミは彼女の首へと両腕を回し、ちろりと覗かせた舌先で戸惑いに戦慄く下唇をそっと舐め上げる。
それがキスを求める合図であると、さすがのリナも察したようだ。
玩具の柄を律義にも握りしめたまま、彼女はゆっくりと目を閉じ、自らへと差し出された唇に控えめな口付けをそっと落とした。
重ねるだけの動きをしばらくは繰り返していたものの、互いに堪え切れなくなったのか、やがて食むような仕草へと変わり、ほどなくして舌を絡め合うまでの激しい愛撫に発展する。

「ンン、っ……。あ……」

口付けの合間、零れる吐息が意図せず切なげに上擦ってしまう。
陰核がジンと痺れるような快感が堪らなかった。

「リナ、もっと……」

沈めるだけでは物足りない。抜き差しを繰り返しながら、敏感な場所を探って欲しい、と。
妖しく強請れば、リナはその頬をより一層赤く染めて、こくりと小さく頷いてみせる。

「ああ……ッ」

緩くうねり続ける滑らかな玩具が、ぬるついた粘膜の中を熱く擦るたび、はしたない嬌声が零れてしまったがアケミはあえてそれを堪えようとはしなかった。
もっともっと、煽り立てるのだ。
リナが女同士の情事へとのめり込むように、己の煩悩を堪え切れなくなるように。そして、アケミの体温なくしては夜を明かせないように。

「きもちいの、すごく……」
「アケミ……っ」

瞬間、リナの双眸が、まるでこちらの痴態を羨むかのように大きく潤み、物欲しげに揺らめき始める。
どこで覚えてきたのだろう。そのはしたない表情は、アケミの内側に潜んだ嗜虐心を必要以上に煽り立てた。

「あは、リナったら……」

アケミはその身を起こし、自らの膣内に埋め込まれた玩具をゆっくりと抜き取りながら、宥めるような手つきで彼女の頬をゆるりと包む。

「挿れて欲しくなっちゃった?」

尋ねれば、恥じらいの為か目元が赤らみ、その視線は宙を落ち着きなく漂い始めた。
が、しかし。そんな羞恥をも上回る劣情が今、彼女の全身を蝕むように支配しているのだろう。
リナはこみ上げる欲望に押し流されるまま、こくりと小さく頷いた。
互いの場所が入れ替わる。下着をゆっくりと脱ぎ去りながらリナはシーツの波間へ、そしてアケミはそんな彼女の足元へとその身を滑り込ませていく。

「まずは、指だよ。覚えてるでしょ、力を抜いて……。気持ち良いことだけ、考えて」

蜂蜜を垂らした指先をゆっくりと、快楽を待ちわびて蠢くその場所へつぷりと埋めた。
するとリナは眉根を寄せて軽く身じろいだが、下肢に力が入っていない様子から察するに、苦痛を感じているわけではないらしい。
それどころか既に粘膜の内側は、潤滑油代わりの蜂蜜を使う必要もなかったのではないかと思えるほどに潤い、淫らな水音を立てていた。

「おかしいね、ココ」

ぐるりと大きく掻き回しながら、アケミは思わず肩を揺らす。

「まだ触ってないのに、どうしてこんなに濡れてるの?」
「あ、う……」
「私が気持ち良くなってるの見て、リナも気持ち良くなっちゃった?」
「んあ、ァ……!」
「やらしいね、リナ。でも、すっごく可愛いよ」

アケミから発せられる辱めの言葉に呼応するかの如く、指先を包む肉襞が卑猥に蠢く様が堪らなかった。
早く玩具をそこへ沈めたくて仕方がなかったが、彼女を快楽の虜にする為にはここで焦ってはいけない。
優しく、大きく、ゆっくりと。少しずつ内側を広げるように、探る様な手つきで抜き差しを繰り返し、慣らしていく。

「ン、ん……っ。あ、だめ……」

指の腹でぐり、と粘液でぬるつく内壁を押し潰すたび、リナの爪先が跳ね上がり、逃げるように腰が捩れた。

「やだよ、アケミぁ! 僕、こんなの……」

自らの許容範囲を超えるあまりの悦楽に、慄き始めたリナは激しい嬌声の合間、取り乱したように首を振り、助けを求めるかの如くアケミの腕へと縋りついた。
少し、愛撫に念を入れ過ぎてしまっただろうか。
与えれば与えるほどに、悦楽をそのまま取り込んで翻弄され続ける彼女の姿はどれだけ眺めていても飽きる事はないのだ。
このまま弄び続けたら、リナはどんな表情を見せてくれるのか。
興味がないこともなかったが、折角の情交なのだ。泣かせたいわけではないのだと思い直し、アケミはそっと膣内から指を抜き去った。

「ごめんごめん、ちょっと焦らし過ぎちゃったね。じゃあ、これからが本番だよ」

一旦、振動を停止させた玩具を手に取ると、

「ゆっくり息を吐いて、力を抜いて。なにも考えちゃ駄目、そうすれば苦しくないから」

幹部分よりも一段盛り上がった雁首の部分がまず、つぷりと粘膜に沈んでいく。
それからゆっくりと、指とは比べ物にならない、リナにとっては異物としか捉えられないであろう本体部分が迎え入れられていった。

「う、ぁ……」

眉根を寄せるリナの表情は、慣れない感覚を受け入れがたいのか、怪訝そうに軽く歪む。
だが、半ばほど押し進めた後で振動のスイッチを入れたその瞬間、快楽の焔が再び全身に灯り始めたようだ。
一定のリズムで上下していた胸の動きが、徐々に不規則な収縮へと移り変わり、呼吸は荒く加速する。

「あ……、ア……っ」

異物感が滾る熱の源へと変化していくあの感覚を、恐らくリナも今、その身体で味わっているのだろう。
胎内で蠢く玩具はやがて違和も苦痛をも取り去って、痺れるような悦楽を敏感な粘膜に植え付けるのだ。
続けざま、手元のスイッチを更にもう一段階押し上げると、こちらにまでモーター音が微かではあるが漏れ聞こえてくるほどに握り込んだ玩具の震えが大きくなっていく。

「ああっ、は……!」

時折、捩れた腰が大きく跳ね上がるのは恐らく、絶え間なく振動する玩具の先端が彼女のウィークポイントを掠めているのだろう。
そのたびに彼女は顎を逸らし、自らの内側で暴れ狂う快楽の渦に驚愕したように目を見開いて身悶えた。

「ンあ、ァ、ああ!」

内側から蹂躙される悦びと衝撃を、アケミはよく知っている。
ゆえに彼女にも、それを思う存分、体験して欲しかったのだ。
他人に腹の中を暴かれるという背徳と、愉悦。それから独占欲にも似た、ほんの少し黒ずみ歪んだ愛情。
性別さえも越境する関係が齎したそれらの快楽は、触れれば爛れてしまうような劇薬に似ていた。

「ふぁ、っ! あ、ァ……」
「リナのおなか、ピクピクしてるね。気持ちいい?」

跳ね上がる彼女の白い下腹を指で擽るようになぞってやると、蠢き続ける異物を含んだそこはより一層、大きくびくりと肌を震わせる。

「きもち、い……ッ、でも、怖いよっ……。アケミ……」

救いを求めるように伸ばされたリナの指先を絡めとり、アケミはふとその口元を綻ばせ、怖がる必要はないと甘く囁いた。

「大丈夫だよ。もっともっと気持ち良くなれば、怖くなんてなくなるから」
「あ、ッ……。は、ああっ」
「我慢しないで、いっぱい出してね」

絶頂が近いことを察したアケミがそう囁きながら耳朶に唇を落とすと、触れた下腹はもはや痙攣を止められないまま激しく荒れ狂い、シーツの波を大きく掻き混ぜながら跳ね回る。
その様子を眺めているうち、ふと悪戯心が沸き上がった。
あともう一段階、スイッチを押し込んだら彼女はどうなってしまうのだろう。
どうせならば最高の快楽で頂へと昇り詰めて欲しかった。
念入りな指先での愛撫に音を上げていたリナにとってはあまりにも刺激的過ぎる体験になるかもしれなかったが、そもそもは彼女から言い出したことなのだ。
アケミに色んなことをして欲しい――と。

「……これ以上、気持ち良くなっちゃったらリナは一人で生きていけなくなるかもね」

束縛を仄めかす甘い呪縛を囁きながら、アケミは握り込んだ玩具のスイッチを一番上まで押し込んだ。

「あああッ」

下腹から聞こえていた振動が、より大きく唸り出す。

「だめ、むり……ッ! アケミ、出ちゃうよぉ」
「いいよ、いっぱい出して。リナが気持ち良くなってイッちゃうとこ、リナぶ私に見せて欲しいな」

縋る彼女の指先に自分の指を絡めつつアケミは微笑み、絶頂を促した。
ピンと伸ばされた爪先と、痙攣する太腿。戦慄く唇、涙を湛えて眇められる瞳。そのすべてが愛しく、美しいとほくそ笑まずにはいられない。

「あ、はァ……ッ! ああっ、ア――!」

甘く掠れた嬌声があがったその瞬間、アケミは膣内に沈めていた玩具をそっと引き抜いた。
視線を落とせば、今まで異物を受け入れていたそこから愛液交じりの蜂蜜がどろりと溢れ出し、しどけなく開かれたままでいる白い太腿を卑猥に汚している。

「ねえ、リナ……」

虚ろな視線を中空へと彷徨わせている彼女に果たして言葉がまともに届くのかどうか、定かではなかったが伝えずにはいられなかった。

「もうリナは、私のものだよ。気持ちいいことも楽しいことも、全部私と――私とだけするの」

身体も、心も、すべてはこの手中にあるのだと。
そう宣言した瞬間、なんとも間が悪い事に彼女は意識を失ってしまったようで、アケミの一方的な独白を肯定するでも否定するでもなくゆっくりと目を閉じ、意識を眠りの中へと沈めていった。

「……ちょっと、やり過ぎちゃったかな」

恐らく絶頂の瞬間に流したのであろう、目尻から一筋流れ落ちた涙の痕を指先でそっと拭い取りながら、アケミは苦笑を浮かべつつ小さくその肩を竦めてみせる。
その寝顔は、悦楽にまみれていた先ほどまでとは打って変わって実に純粋無垢なものだった。
絶頂を求めて淫らに歪む様を眺めているのも楽しかったが、やはりなんだかんだアケミが一番好きなのは、こういった安らかな表情なのだ、と。
改めてこみ上げる彼女への愛しさをひしひしと全身で実感しながら、アケミは身を屈めると、規則的な寝息を繰り返す小さな唇へ、口付けを密かに落としたのであった。



次にリナが目を覚ましたのはそれから約一時間後のこと。
アケミが淹れた甘いアップルティーを啜りながら、未だ冷めやらぬ熱の中、彼女はどこか気だるげな表情を浮かべていた。

「ねえ、善かったでしょ?」

隣に腰を下ろしつつその横顔を覗き込めば、カップを両手に包んだまま、リナはその頬へ朱を走らせる。

「よ、善かった、けど……。でも、ちょっと怖かった」

彼女の方から求めてきた末の情事だったとはいえ、アダルトグッズを用いるのは早計だったか――。
だが、しかし。感触としては悪くはなかったはずだ。
徐々にゆっくりと、蝕むように。少しずつ官能を教え込んでいけば、いずれあの程度の玩具などでは満足できない体に変化していくことだろう。
焦ることはない。少なくとも彼女の心は既に、快楽の虜となりつつあるのだ。

「ねえ、次はどんなことしよっか?」

尋ねると、リナの頬はまるで茹だるようにますますその色を赤く染め、カップを握りしめたまま、表情を深く俯かせてしまう。

「お、思いつかないよ。そんなこと急に言われても……」
「そっか。じゃあ、思いついたらすぐ教えてね」

――リナのしたいことなら、私が全部してあげる。
その言葉の裏に潜む独占欲や身勝手な劣情に、果たして彼女はいつ気が付くのだろうか。
否、一生気付かなくていい。気付いてほしくない。
あくまでも良き「友人」として今は取り繕いたいのだとアケミは薄く微笑むと、さて次はどんな手段で情事に持ち込むべきかとまだ見ぬ甘い時へ思いを馳せ、乱れるリナの姿を夢想するのであった。