ブーツフェチ物で洗脳NTR

おまかせコースより御依頼

頂いたご依頼内容
洗脳寝取りもの
洗脳された(彼女、妻)がブーツを履いて(彼氏、夫)に厳しい折檻
室内でもブーツは脱がず、折檻する時も踏みつけや蹴りメイン

「ただいま」

涼子との結婚から早三年、幾度となく繰り返した台詞だった。
彼女は僕と籍を入れて以降、それまで長く勤めていた化粧品会社を退職し、所謂専業主婦として実に健気に家庭を守り続けてくれている。
とはいえ、なんだかんだ僕も一人暮らしが長かった故、彼女ひとりに家事の負担を背負わせるつもりは毛頭なかったのだが、曰く「家事をこなしつつ夫の帰りを待つ生活がずっと夢だった」と語る本人の強い希望により、こういった少々時代錯誤にも思える結婚生活を送っていた。なにせ女性従業員だらけの職種、それもキャリアウーマンが多い会社であった故に寿退社の際は同僚たちから「家事に専念するのは勿体無い」と惜しまれたそうだが、にも関わらず彼女が僕を支えることに専念すると宣言してくれたその事実は、僕にとって何よりの励み、そして喜びとなっている。
疲労の蓄積された気怠い足を引き摺りつつ玄関の扉を開くたび、鼻腔をくすぐるのは食欲を唆る料理の香りも日々の楽しみの一つである。そしてぱたぱたと可愛らしい足音を立てながらこちらまで駆け寄ってくる彼女の愛らしい姿と、極上の笑顔から繰り出される「お帰りなさい、今日もご苦労様」という労いの言葉。
それらを目の当たりにするごと膨れ上がる幸福感は、何事にも代え難いものである。
――が、しかし。

「……涼子?」

どうしてだか今日は玄関の扉を開けても尚、食欲を唆る品々の匂いも、彼女の姿も見当たらなかった。本来であれば玄関や通路に点っているはずの電灯も電源が切られているのか、実に寒々しくひっそりと鳴りを潜めていた。
体調でも崩しているのだろうか。だが、それならば彼女からなんらかの連絡がすぐに僕の元へ入るはずである。まさか、連絡も取れないほど緊急性の高い事故や事件に巻き込まれたのではと焦りを感じ、僕は履き古した革靴を慌てて脱ぎ捨て、彼女が待っているはずのリビングへと半ばなだれ込むようにして駆け込んだ。

「おや、旦那さんのお帰りですか」

瞬間、眼前に飛び込んできた光景は実に不可解なものであった。
見知らぬ恰幅の良いスーツ姿の中年男が、我が物顔でリビングの二人掛けソファに腰を下ろしていたのだ。
歳の頃は五十代といったところだろうか。薄い頭髪とその顔面に滲んだ油分は思わず眉を顰めたくなるほどに不快であったが、それにしては纏ったスーツは皺一つなく、それが有名なブランド物であろう事が一目で察する事ができた。
身なりに気を遣っているのか、いないのか。不可解なその出立は実に不穏で、穏やかなはずだった僕たちの生活に突如として現れた異物であることは明白であった。
そしてその傍には、真っ黒で挑発的なデザインの下着にガーターベルト、そして何故か室内だというのに黒革のロングブーツを身に纏った僕の妻――涼子の姿が、そこにはあった。

「りょう、こ……?」
「突然のことで驚かれましたよね。私の方からご説明致します」

戸惑う僕に応えてみせたのは、涼子ではなく中年男の方である。

「申し遅れました。私、こういう者でして」

言いながら男が差し出したものは、一枚の名刺である。
聞いたこともないような会社名と、明らかに偽名だと窺える「山田太郎」という名前、その上には「開発部」という部署名が実に質素なレイアウトにて簡潔に記載されていた。

「いやね、昼間にお買い物中の奥様を見かけまして。ピンと来るものがあったんですよ。貴方の奥様、涼子さんには素質がある、と」

下品な微笑と、肌に絡みつくかのようなねっとりとした口調で、男は語り続ける。

「そう、男を悦ばせる〝折檻〟の素質がね。温厚な彼女の奥底から、本来は存在しないはずの凶暴性を引き摺り出して、定着させる。それが我々の仕事でありサービスの一環なのです」

僕は男の言葉の意味を、そして状況を、相変わらず何一つ飲み込めないまま、その場にただ立ち尽くしていた。
男を悦ばせる折檻とは、存在しないはずの凶暴性とは。
淫猥ながらも不穏な趣を隠しきれない言葉の数々が、僕の腹から戸惑いと慄きを強引に汲み上げていくのが分かる。
「私の見込み通り、奥様は素晴らしい素質をお持ちでした。ほら、これを見て下さい」
言いながら男は徐にソファから立ち上がると、クリーニングの行き届いた高級スーツのジャケット、そしてワイシャツを実に手早く脱ぎ落とし、でっぷりとした脂肪を乗せた肉厚の背を僕の眼前へと晒してみせたのだ。

「な……っ」
「素晴らしいでしょう? この傷、この赤み……。私の肌にそれを刻み込んだのは他でもない、涼子さんなのです」

男の背中一面に広がっていたのは、何か尖った物でそこを執拗に刺したのか、それとも殴りつけたのかは分からなかったが、赤黒く細かい鬱血の痣である。所々は出血までしているようで、その傷跡は実に痛々しく明らかに人為的に齎された怪我である事が窺えた。

「涼子さんに踏みつけられるそのたび、あまりの痛み、そして快感に私は堪え切れず何度も射精してしまいました。ああ、思い出すだけで身震いしますよ。是非この悦楽を、旦那様である貴方にも味わって欲しいのです」

瞬間、思考が、精神が、僕の中に流れる時間が凍りつく。
踏みつける、射精、悦楽の共有。相変わらず意味が分からなかった。
だが、しかし。理解できないながらも、本能的に察してしまったのだ。恐らく彼女は、涼子はもう――僕の知る涼子ではないのだ、と。

「ほら、涼子さん。愛する旦那様にも味わって頂きましょう。極上の痛み、そして堕落と悦楽を」

瞬間、僕の横っ面に鋭い衝撃が叩き込まれる。
まるで頬の肉を細く硬いもので貫かれたような、一切の容赦を感じられない目の覚めるような痛みであった。
故に僕は、これが質の悪い悪夢ではないことを認めざるを得なかった。

「なに、を……」

男が発した言葉に促されるまま、涼子は頽れた僕の眼前へと実に横柄な態度で立ち塞がる。

「どう? 私に初めて蹴り飛ばされた気分は」

そんな彼女の発言で、ようやく僕は自身の妻にブーツを履いたままの足で頬を一蹴された現実を知った。肉に沈み込んだあの鋭い感触の正体は、どうやら鋭く尖ったピンヒールらしい。

「どうしたんだよ、涼子……。この男は何なんだ? しかもそんな格好で、今まで何してたんだよ……!」

悲痛な叫びを上げたその瞬間、今度は鳩尾にピンヒールの底が深く沈み込んだ。
無様にも再びフローリング上へと倒れ込む僕を見下ろす彼女の双眸は、信じられないほどに冷たく、しかし不埒な焔を宿しているように見えて実に不気味で不可解だった。

「なんで、どうして……」

しかし、彼女が返答を紡ぐことはない。
代わりに繰り出されたのは、再びの鋭い痛みであった。しかも今度、その衝撃が叩き込まれたのは、あろう事か僕の股座、縮こまった性器の上だった。

「あああああっ! ぐ、ァ……っ」
「ふふ、痛い? 苦しい? でも大丈夫よ、いつかは気持ちよくなれるから。だって、この人がそうだったもの」

僕の性器をグリグリと踵で踏み躙りながら、彼女は伸ばした腕で衣服を整え終わったらしい男の首を絡め取った。

「ねえ、痛みの楽しみ方を教えてあげて? 私にも人を甚振る才能があったように、きっとこの人にも苦痛を喜べる才能があるはずだから」

ねっとりと絡みつくような、甘く媚びた彼女の声音が悍ましかった。
恋人時代を含めるとかなり長い時間を共に過ごしてきたはずなのだが、このような煩悩に塗れた声で彼女が男に語りかける様を、僕は一度たりとも目撃した事などない。ましてや恋仲であった僕に対してすら、ここまで淫靡な声色を零したことなどないだろう。
セックスの際にあげられる嬌声とは似て非なる妖艶なその響きは、煽情的でありつつもどこか狂気に近いような気がして、脳内にたちまち警鐘が鳴り響いた。
駄目だ、耳を傾けては。理解しようとしてはいけない。
そんな危機感を保ち続けることで僕はどうにか自らの中にかろうじて残っていた正気や理性を決して離すまいと抱き続けたのだが、それも長くは続かなかった。
一体、目の前の男はどんな方法で彼女をこんな姿に変えてしまったのだろうか。奇術、催眠、洗脳――。どれもこれも、根拠のない憶測である。それに、こうなってしまった後では今更原因を突き詰めたところで何の意味もないような気がして、僕は膨らむ痛みとは裏腹に思考を徐々に投げ出し始めていたのだ。

「う、あ……」
「ああ、駄目ですよ。与えられる痛みに抗う故、それを苦しいと感じてしまう……。真の苦悶は、痛みに非ずです。否、痛みこそが史上最高の悦楽である事に貴方は早く気付かねばなりません」

彼女の細い腰を、太く短い腕で抱き寄せながら男は嗤った。
苦痛に対し、本気で性的興奮を覚えているのか、それとも彼女同様、僕に対しても特殊な洗脳を施そうとしているのだろうか。
浮かべられた薄笑いからは、一向に男の思惑が透けてこない。
どうして、何の為に。なぜ、彼女が、そして僕が、こんなことに。

「痛みは即ち、生の証なのです。生きる喜び、実感――。自らの命が確かに存在する事を感じる為に存在する感覚、それが痛みなんですよ。が、生きることの証であるが故、大抵の痛みは怪我をした時や病気に苦しんでいるとき等、自らの身体が危機に瀕している際、より強く生じる傾向にある」

自らの理論に酔い痴れているのか、男の表情は恍惚に蕩け、より一層、脂ぎった顔が大きく歪んで醜く蕩けた。
そしてその間も彼女はぐりぐりと、硬く尖った踵の先で僕の性器を容赦なく無遠慮に踏みにじり、涙がとめどなく零れるほどの苦痛を僕へと与え続けている。

「つまり、今わの際に味わう苦痛は恐らく、人間の感覚で得られうる最高の悦楽となる可能性が非常に高い。まあでも、それを常習的に味わうのは非常に難しいことなんです。貴方もたまにニュースで耳にしたりするでしょう。セックスの最中、戯れで首を絞めていたら相手を死なせてしまったという事件を。それは究極の悦楽を求めた末、加減を間違えたことによる悲しい事故なんです。だから私は、安全かつ常習的に味わえる痛み、快楽を提供する為に日夜営業を行っているというわけなんですね」

もはや僕の耳に男の演説など届いてはいなかった。
滲む冷や汗と、鋭い衝撃。毛穴という毛穴に細い針でも差し込まれているような、びりびりとした痛みに肌が粟立って震えているのが分かる。

「あらあら、すごい汗ね。でもそれは、キチンと痛みを感じてる証拠……。あと少し、もう少しであなたにもきっと見えてくるはずだから。痛みの向こう側、本当の快感が」

次の瞬間、ピンヒールの底が項垂れた陰茎をすり抜け、柔らかな睾丸へと深く突き刺さる。

「――っ!」

もはや、悲鳴をあげることさえ出来なかった。
今までに味わってきた様々な苦痛を遥かに凌駕するその感覚は、形容するなれば「罰」、否――「断罪」に近い。
余程の大罪でも犯さなければ味わう機会など滅多に与えられないであろう、拷問に等しい痛みは僕の中から瞬時に色んなものを奪い去っていった。
不審者を警察へ突き出さなければならないだとか、一刻も早く彼女を医者に見せるか何かして施された洗脳を解かなければならないだとか、助けを求めるだとか、そんな当たり前の行動に思い至らない程、肉体のみならず思考の自由さえ奪われてとうとう四肢をフローリング上へと投げ出してしまった。
これは悪夢だ。幸せ過ぎる日々を無意識のうちに憂いていた僕が生み出した、被害妄想の権化なのだ、と。現実逃避に走りかけたが、しかし。責苦は止まらない。それどころかますます彼女は僕の性器へと理不尽な暴力を与え続け、絶え間のない痛みを生み続けたのだ。
その苦痛は即ち、この地獄が決して夢ではないことを証明していた。

「いいですよ、その調子です。だんだんと力が抜けて来たでしょう? すべてを受け入れ、脱力するのです。痛みを許容すること、やがては自ら欲するほどに求めること――そこに辿り着いてしまえば、貴方はもう痛みから離れられなくなる。それが最高の悦楽であると身を以て体感してしまえば最後、二度と真っ当には生きられない」
「あ、ァ……!」

果たして男が何を語り掛けているのか、痺れた思考では理解する事が出来なかったが、どうしてだかそれはまるで睦言のように甘く全身に染みわたる。決して耳を傾けてはならないその囁きが恐らくは彼女の心身を蝕んだであろうことを僕は心の片隅で察してはいたものの、気付いたところで今更どうすることも叶わない。
要するにこれが、服従というものだ。抗いがたい苦痛を以て相手を支配し、掌握する。卑劣で残酷な手口であったが、僕にはもう屈することしか許されなかったのだ。
睾丸を雑に踏みつけられるそのたび、視界は虚ろに蕩け、口端からはまるで赤ん坊のように唾液が堰き止められることもないまま垂れ流しとなり、下顎を汚していく。
恐らく僕はいま、白痴のような表情を晒していることだろう。
情けがなかった。しかし、どうやら彼女は僕のそんな為体をひどく気に入ったようで、滲む視界の向こう側、丸く大きな瞳を爛々と輝かせながら小さな唇をにやりと吊り上げてみせた。

「あは、だんだんイイ顔になってきた……。クセになってきたでしょう? もっともっと、善くしてあげる」

ふと、性器に沈んでいたヒールの感覚が喪われた。
突如訪れた解放感に、引き裂かれかけていた心身が僅かながら息を吹き返す。

「りょう、こ……」

助けを請うように彼女の名前を呼んだその時、今度は喉奥に何かが沈み、深く潜り込んだ。

「あ、ぐ……っ、ンン!」

どうやら先ほどまで僕の陰茎や睾丸を踏みつけていたヒールの先が、僕の口腔内へと差し入れられたらしい。
嗚咽がこみ上げ、涙が滲んだ。呼吸を奪われてしまうかもしれないという恐怖がせり上がり、既に失われていたはずの力が反射的に筋肉を突き動かそうとした――が、しかし。取り戻しかけたその最後の力は、暴力や痛みなどではなく、愛する彼女が、そして見知らぬ男が紡いだ言葉によって今度こそ綺麗さっぱり霧散してしまったのである。

「受け入れて、私のことを。いま感じてる痛みごと、全部愛してその身体に刻み付けて忘れないで」
「受け入れなさい、彼女のことを。貴方がいま感じているそれは、その肉体を引き裂く為のものじゃない。極上の悦楽なのだから」

まるで脳みそを直接掻き混ぜられているような不快感を伴いながら、二人の言葉が僕のなにかを壊してしまった。

「あ、ふ……」

苦痛の底から、本来は存在していないはずの煩悩を引きずり出されたような不本意な衝動であった。
だが、それに僕は抗うことなど出来はしない。断続的に与えられ続ける痛みに突き動かされるまま、いつの間にか伸ばした舌先で突き入れられたヒールを舐り始めていたのだ。

「おや、随分の呑み込みが早い。さすがは、涼子さんの選んだ人だ。つまり二人は結ばれるべく結ばれたご夫婦だったんですねえ」

半ば嘲笑うかのような男の言葉など、もはや心に響くことはない。
この時、僕が狂おしいほどに切望していたのは愛する伴侶から与えられる鋭い感覚――即ち、痛みだった。

「あはは、すっごく可愛い顔……。もっともっと、見てみたいわ」

いつまでそうしていただろうか。口内からずるりと細いヒールが引き抜かれ、唾液の糸がつうっと僕と彼女の踵を繋いだ。

「さあ、服を脱いで。勿論、全部よ。あなたのその肌、直接踏みにじって沢山痕を残してあげるから。嬉しいでしょう? 私もすごく嬉しくて楽しいの。あなたをこうやって傷つけられることが」

僕はゆっくりと上体を起こし、命じられるままもたつきながらも纏っていたスーツを下着と共に脱ぎ捨て、第三者が未だ見守り続けている状況にも関わらず一糸纏わぬ姿となった。
そこで僕は初めて、自身の身体に起こった異変を知る。
あれだけの苦痛を与えられ続けているにも関わらず、そして先ほどまで散々と容赦なく踏みにじられたにも関わらず、僕の性器はその頭を擡げ、赤黒く色付き興奮の兆しを見せ始めていたのだ。

「あら、結構大きくなってるじゃない。そんなに気持ち良かったの? ついさっきまで痛がって泣いてたクセに……。ふふ、すっごく嬉しい」

ふと伸ばされた白く細い指先が、涙や唾液に濡れた僕の顔の輪郭を象るようにゆっくりと、そして官能的な軌跡を描きながらなぞり上げる。
今朝までの彼女を彷彿とさせるような、その優しささえ窺える感触に思わずうっとりと目を眇めたその時、丹田へと再びヒールの先が強烈な痛みを伴いながら深く沈み込んだ。
瞬間、視界がチカチカと明滅する。赤、白、青、黄と様々な星の輝きが眼前に現れては消え、際限なく広がっていく様は実に神秘的であり、あまりにも危険な光景だった。

「あなたのお腹、踏みごたえがあって凄く気持ち良いわ。柔らかすぎず、かといって硬すぎるってこともないし。適度な反発力があって何回でも踏みつけたくなる」

やがて彼女は地団駄でも踏むかの如く、ほとんど叩きつけるような勢いで何度も何度も僕の下腹へとブーツの靴底を沈め続けた。

「ぐ、う……!」

体重を思い切りかけられると、息が詰まった。
酸素を取り上げられた思考はぼんやりと霞み、苦痛を感じているにも関わらず奇妙な浮遊感を伴って僕の肉体を柔く包み込む。
ふわふわと無重力の世界を漂うかのような自由さえ感じられる脱力感が心地よい。このまま意識を失えたら、とても良い夢が見られそうだった。
しかし、そんな僕の滓かな望みが叶えられることはない。
何故なら彼女が与える苦痛は一見、出鱈目なようで実に緻密な力加減の施された折檻だったのだから。
意識を失うほどに鋭すぎず、かと言ってこちらに抵抗心を抱かせるほど生温くもない、実に絶妙な暴力である。それも男が施した洗脳の賜物なのだろうか。わからない。

「気持ち良い? ねえ、気持ち良いなら良いって言って」
「っ、は……。ぐ、う……!」
「こんなに勃起してるんだから、気持ち良いに決まってるわよね。ああ、もっとあなたが乱れている姿が見たい! ねえ、どうしたらあなたはもっと苦しむの? 気持ち良くなれるの? あなたの口から教えてよ……。ねえ!」

僕の腹を踏みつけながら、興奮を抑えきれないのか彼女は半狂乱となりながら不毛な問いかけを繰り返す。

「もっと欲しいでしょう? 痛くして欲しいでしょう?」
「っ、ほしい……」
「聞こえない! それじゃ私の心には届かないわよ」
「う、あ……! ほしい、痛いの……っ」

――もっと、痛くして欲しい。
今となっては、本当にそれが僕の望みであったのかどうかも思い出す事が出来なくなっていた。
苦痛は悦楽とすり替わりつつあり、硬く勃起した亀頭の先からは我慢汁がはしたなく滴り落ちていたものの、心と身体が分離してしまったかのような奇妙な違和感は未だ肌にこびりついたままだった。
考えるより先に言葉が出てしまう。そして、自覚するより早く欲してしまう。痛みと罵倒と、彼女たちが繰り返し提唱する「極上の悦楽」を。

「そうよね、もっと欲しいのよね? ふふ、いいわ。たっぷり味わわせてあげる」

今度、彼女のヒールが叩きつけられた場所は丹田などではなく、硬く大きく膨れ上がった僕の亀頭の上だった。

「あああああああ!」

叩きつけられたその衝撃は、細い尿道の中にまで電流のように鋭く駆け抜ける。それは睾丸の更に奥、前立腺の辺りにまで波及して僕の興奮をより大きく激しく煽ってみせたのだ。

「あら、ヒールが折れちゃったわ……」

酷使されたブーツの細いヒールは与えられ続けるその衝撃に耐えかねたのか、根元の方から無残にもポッキリと折れてしまっていた。

「ああ、いけませんねえ。すぐに新しいものを御用意致します。今度はそうですね、こちらなんていかがでしょう?」

未だ部屋の片隅にて僕たちの不毛な情事を見守っていたらしい男が、どこからか新たな女物のブーツを取り出して彼女へと膝を折りながら恭しく差し出してみせた。
エナメル素材のそれは、明らかに普段使いではなくアニメのコスプレか、それとも舞台衣装か、もしくは特殊なプレイにて用いられるであろうことが想定されたデザイン性重視のニーハイブーツである。
先ほど彼女が着用していたそれよりも更にヒールが高く、もはや履物というよりも凶器性に特化していた。長時間の着用は一切考慮されていない、男の性欲を煽る為だけの存在といっても過言ではない。

「ありがとう、じゃあ履き替えようかしら。あなたは、そこで見ていてね。今から自分の身体をいっぱい踏みつける予定のブーツを私が履くところ……。ちゃんと目に焼き付けておきなさい」

言いながら彼女はブーツを受け取った後、新婚の頃に二人で購入した思い出のソファへと腰を下ろすと、フローリングに転がったままである僕へと見せつけるようにして長い脚を投げ出した。

「は……っ、はぁ……」

焦らすように、ゆっくりとブーツのチャックが下げられる。
履き心地など二の次、否――もはや求められてすらいなかったのであろう。金具を引っ張るそのたびに、エナメルがぎちぎちと窮屈そうな音をたてて小さく軋んだ。

「さあ、今度はこれでどこを踏みつけてあげようかしら」

足先が差し込まれたその後、再び彼女は金具に手を伸ばして今度は開ききったそのチャックを先ほどと同様にゆっくりと、新たなる刺激を欲して息を荒げる僕の焦燥感を煽るような慎重さで片方ずつあげていく。
まずは左足、そして右足。彼女の細い太腿にまで到達するほど長いニーハイブーツは挑発的な下着のデザインと相俟ってか猛々しくも実に色っぽい。
先ほど、このリビングに足を踏み入れてその姿を目の当たりにした時は、未だ二人きりで入浴することさえ躊躇うほどに控えめで清純な彼女には、このような煽情的かつ卑猥な出で立ちはあまりに不釣り合いであると感じたはずなのに、今ではまったく逆の印象を持ってしまっているのだから洗脳とは恐ろしかった。
もはや僕は、在りし日の彼女を思い出せなくなっているのかもしれない。彼女が常日頃から浮かべていたはずの柔和で穏やかな笑顔が、淫靡な嘲笑へと塗り替えられていくようだった。

「そろそろ、射精するところが見たいわね。あなたは、どこを踏まれるのが一番気持ちよかったの?」

再びソファから立ち上がった彼女が、一歩ずつ歩み寄って来る。
コツコツと、硬質な音をたてながら、ゆっくりと。
やがて彼女は仰臥した僕の身体を、ブーツを履いた長い脚で大きく跨いでみせた。
このような角度から破廉恥な下着を身に纏った彼女を見上げることになるとは、誰が予想しただろう。

「さあ、正直に言いなさい。今更、隠し事は駄目よ」

鼓動が高鳴る。未知なる悦楽への期待、そしてほどなくして訪れるであろう解放の瞬間に全身が悦び震えていた。
もはや彼女にこうして見下ろされているだけでも射精してしまいそうだった。

「僕の、ここ……。踏んで、ほしいです……っ」
「ここって、どこの事かしら」
「おちんちん……ッ! 僕のおちんちん、いっぱい踏んで……!」

それは懇願というよりも、悲鳴に近かったかもしれない。
与えて欲しくて、解放されたくて、感じたくて仕方がなかったのだ。生きている証、極上の快楽というものを。

「いいわよ。あなたの望み、叶えてあげる。たっぷりと味わいなさい!」

興奮に掠れた彼女の叫びと共に、本日何度目か分からないヒールの先が剥き出しとなった陰茎目掛けて叩きつけられる。

「――っ!」

心臓がより力強く脈打つと同時、フローリングの上で躍るように腰が跳ね上がった。

「ひっ、あ……っ! うああ……」

どくり、どくりと。腰が痙攣するたび、亀頭の先から信じられないほど色濃く大量の精液がはしたなく迸る。
まるで壊れた水鉄砲のように大袈裟な弧を描いて吹き上がるそれは子孫を残す為の子種というよりも、腹の奥底にてくすぶっていた煩悩の残滓に近い。
本来であれば繁殖する為の精子がその役目を放棄して、ただ快楽を体外へと押し出す飛沫へとなり下がったような敗北感が僕の全身を気怠く包んだが、しかし、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ、爽快感さえ伴って、妙にすっきりとした気分である。
まるで長年の閊えが取り除かれたような、無意識に探し求めていた境地へとようやく辿り着けたかのような、根拠のない充足だった。

「おやおや、本当に呑み込みの早いお方だ。初めての折檻でこれほどまでに濃ゆい精液を吐き出せるとは……。いやはや、自分の審美眼を信じて良かった」

僕の射精を見届けた男は弾むような口調で僕たちを、そして自身の仕事ぶりを絶賛しながら嬉しそうに両手を叩き、その悦びを露わにする。

「ああ、私もまた興奮してきてしまいました。涼子さん、今度は私の愚息にも折檻を施しては頂けないでしょうか。報酬は弾ませて頂きますよ。あなた方ご夫婦の望むだけ、ね」

瞬間、リビング内に万札の雨が降り注ぐ。どうやら男がその傍らに置いていたアタッシュケースの中身をぶちまけたらしい。
だが、僕にはもう金など必要なかった。恐らく、彼女も同様に。
何故なら僕たちはもはや、不埒な痛みと悦楽に心身を支配され、従来の幸福など忘れ去りつつあったのだから。