草食系男子×ビッチ+頑張り屋女子

「負けてしまいました……」

涙の滲む沈んだ声音で零しながら、目の前のくのいち――弥生の腰がすとんと落ちる。
つい先ほどまで対峙していた智影の手には、勝利の証である小さな巻物が握られていた。
交換留学と称し、くのいちのみで構成された忍軍を訪れたのはつい先日の事である。
男とは違うしなやかさと器用さを兼ね備えた彼女たちの忍術はなかなか手強かったものの、決して驕るわけではないが自らが所属する忍軍の中でもかなりの手柄を立て続けている智影が相手をするには、少々物足りなさを感じるところだった。
――が、しかし。その反面、当惑している事もある。

「君たち、本当に忍ぶ気あるの……?」

誰に尋ねる訳でもなく、頭巾で口元を覆い隠しながら智影は小さく呟いた。
夜闇に紛れる為、漆黒の装束に身を包んでいるこちらとは裏腹に、くのいちたちの纏う衣装はというと各々の個性が表れている煌びやかな作りのものが非常に目立つ。
たった今、智影に敗北した弥生が纏っているものは露出もそれほど多くはない紺色の所謂標準的な忍装束であったのだが、そんな彼女に代わって前へと進み出た次なる対戦相手の装いはというと、まるで遊女か何かと見まごう程に豪奢で大胆なものだった。

「葉月姉、頑張ってね」

と、弥生に声を掛けられたその遊女――もとい、くのいち忍軍の一人である葉月は自信に満ちた笑顔を浮かべて、細い顎をつんと傲慢な仕草で突き上げた。

「任せときな。こんな坊やにアタシが負けるわけないでしょ?」

彼女のいで立ちは、周りを取り囲み手合わせを見守るくのいちたちの中でも、特に奇抜で過激なものだった。
上半身は合わせ目が大きく開かれている為に胸の谷間が堂々と外気に晒されており、帯の締められていない腹部もまた同様に露わとなっている。
衽もやけに裾が短く、そして両脇に深い切れ込みの入ったそこから肉感的な太腿が長く伸びており、智影は目のやり場に内心、困り果てていた。
そのような装いで、一体どこへ忍ぶというのだろう。
尋ねたいことは山のようにあったが、無駄口を叩いているうちに心が挫けてしまうかもしれないと思い直し、精一杯の強がりとして智影は自身の眼前に立ちはだかる煌びやかなくのいちをキッと睨み据えた。

「……それでは、参る」

動揺を見透かされぬうちに、勝負を決してしまおうと挨拶もそこそこに智影は駆け出した。
今回の手合わせは、互いが懐に隠し持っている巻物を奪い合うという明快な規則のものである。しかし、忍びとしての素早さ、技巧、そして戦闘力を測るにはうってつけの方法として様々な忍軍にて採用されている伝統行事のようなものだった。
さて、葉月はというと目的の巻物を無防備にも堂々とその左手に握りしめたままである。
彼女が纏うその衣装には懐というものがそもそも存在していないので隠しようがなかったのだろうが、それにしても手持ちとはこちらを侮り過ぎではないのかと智影は目にも留まらぬ速さで葉月の側へと接近し、すかさず手を伸ばす。
――が、しかし。

「やあね、男って。勝負はもっと長く楽しまなくちゃ」

瞬間、葉月が消えた。否、高く飛翔をした。

早漏はモテないよ、覚えときな」

驚くほどの至近距離から、甘い声音で囁かれる。
接近を容易く許してしまった己の不甲斐なさに驚愕すると同時、不慣れな甘い色香を浴びせられた事に動揺した智影は伸ばしかけた手を引き、ほとんど飛びのくようにして後ずさってしまった。
ふざけた形をしているが、この女――なかなかと腕が立つらしい。

「あらあら、可愛い反応しちゃって」

こちらの狼狽を目ざとく見透かした葉月はというと、不敵な笑みを浮かべながら左手で握りしめていた巻物をあろうことか自身の胸の谷間へと押し込んでしまったではないか。

「なっ……!」
「うふふ、早漏クンにアタシの巻物が奪えるかな?」

屈辱の台詞を浴びせられてしまったが、智影には反論を示す事が出来なかった。
なぜなら彼女は、的確にこちらの弱点を突いてきている。
先ほどの一瞬で、智影に異性への免疫がない事を咄嗟に見抜いてしまったのだろう。
どうやら身体能力だけではなく、観察眼もなかなかのものであったらしい。人は見かけによらぬと言うが、思わぬ強敵が出てきてしまったと智影は密かに舌を巻く。
だが、折角の交換留学なのだ。容易くねじ伏せられるようなか弱い相手ばかりでは張り合いがないと感じていたのもまた事実である。
それに色仕掛けというものは、くのいちが用いる正当な手段の一つとして数えられている、云わば常套手段なのだ。
色呆けをしたどこかの武将が、まんまと敵の忍に寝首をかかれ、翌朝に一糸まとわぬ姿でこと切れていたという話も珍しくはない。
この際、不慣れな場面を克服するつもりで挑んでみようと智影は改めて己の心を叱咤すると、今度は煙幕を放ちつつ、再び相手への接近を試みた。
――が、しかし。

「……ッ」

途端、かまいたちのような鋭い風圧が智影の全身に襲い掛かる。
一体何事かと煙幕の中で立ち止まり、ふと自らの胴体へと視線を落としてみると――。

「なっ、な……!」

あろうことか、忍装束がズタズタに引き裂かれているではないか。
慌てて薄れゆく煙の中に視線を彷徨わせ、相手の姿を探してみると、視界の隅で葉月が苦無を手に煽情的な微笑を浮かべていた。
どうやら彼女は器用なことに、こちらの皮膚は一切傷つけることなく、たった一瞬の隙を突いて衣を引き裂いてしまったらしい。

「ほらほら、早く巻物取らないと……」

裸になっちゃうよ、と再び耳朶に甘い吐息が吹き込まれた瞬間、飛び退くのが遅れ、今度は頭巾を大きく切り裂かれてしまった。
はらりと解けたそれは砂の上に落ち、狼狽する智影の表情が意図せず葉月の眼前へと晒される。
模擬戦とはいえ、忍が任務の最中に特別な理由もなく素顔を暴かれるなど言語道断である。
が、今は屈辱感よりも何故だか羞恥心の方が酷く強い。
己の表情を真正面から悪戯な葉月の瞳に見据えられ、まるで凍り付いてしまったかのように手足が動かなくなる。
果たしてどんな術を使ったのか――などと智影は頭をしばし悩ませていたが、単に女性への免疫が皆無であった為に生じた極度の緊張だと気づいたのは、しばらく後の事だった。

「仕掛けてこないなら、こっちからいくよ!」

うろたえ続ける智影の元に容赦なく葉月は飛び込むと、今度はどこから取り出したのか、手甲釣を嵌めた両手を踊るように振り回し、上衣をすっかり切り裂いてしまった。
頭巾、上衣を早々に失った智影は今、かろうじて袴だけは身に着けていたものの、それすら所々を破られてしまっている為、衣服としてはなんとも心許ない。

「ちょっ、ちょっと待って……!」

そもそもの話、少しずつ衣服を破くという手法を男忍者に対して使用するのはどうだろうという疑念が湧く。
敵の手に堕ちたくのいちたちが拷問と称して地下牢にて衣服を裂かれ、そのまま辱めを受ける事も少なくないと聞くが――。

「待ったはナシだ! 男が情けないこと言うもんじゃないよ」
「いやいやいや!」

そもそも、相手から巻物を奪うという本来の趣旨から外れているのではないだろうか。
先ほど上衣を剥がれた拍子に、智影が袖の中に収めていた巻物も体を離れ、今では所在なさげに砂の上へと空しく転がっている始末である。
しかし、葉月はそんな巻物には目もくれず、どうしてだか智影を衣服を剥ぐことに執心していた。

「……ッ、くそ!」

巻物はさておき、とりあえず距離を取らなければと飛び退こうと足を引いたのだが、まるで見計らっていたかのように今度は彼女の手から木綿を細く裂いて作り上げた無数の白い帯が投げつけられ、智影の手首と足首に巻き付けられてしまった。
所謂、蜘蛛の巣投げというやつである。

「さて、どう料理してやろうか……」

帯を手繰り寄せながら自らの唇を舌で湿らせてみせた彼女の表情はまさに女郎蜘蛛の如き凶悪で淫靡だ。
と、その時である。唇に視線を奪われた隙を突き、またしても智影は葉月に接近を赦してしまう。
不覚にもそのまま背後を取られ、あろうことか羽交い絞めに――というよりも、後ろからきつく抱きすくめるように彼女の腕が智影の胴体へと絡みつく。
素肌を蛇のように這いまわる滑らかな指先の感触に惑わされ、未知なる感覚に足が竦んだ。

「感度は良好ね。これは苛めがいがありそう」

くすくすと笑い声を零しながら、葉月が懐から新たなる道具をひとつ取り出してみせる。

「な、なにを……」

それは、長い穂を持つ一年生草本――所謂、狗尾草であった。
犬の尾に似ているという理由から「狗尾草」と名付けられたそれは、ふわふわとした穂が非常に特徴的な雑草で、人によっては「猫じゃらし」などと呼ぶ事もある。

「……ッ、うあっ」

信じられない事に葉月は手にしたその狗尾草で、智影の胸の突起を擽り始めたのだ。

「ひっ、やめ……!」

無防備な場所をふわりとした尾で何度も撫で上げられるたびに、上擦った情けない悲鳴が智影の唇から幾つも零れてしまう。
その奇妙な感覚から逃れようと身を捩ってはみたのだが、四肢には蜘蛛の糸、そして背後にはこちらの胴体を抱きすくめる葉月の存在。
そしてなにより耐え難かったのは、背中にずっと当たり続けている柔らかな乳房の感触である。
身じろぐたびに弾むその柔らかな膨らみが背筋に擦れ、堪らない。

「気持ちイイ? このまま降参してくれたら、もっと良くしてあげるけど」

どうやら葉月が足元に転がった巻物を拾わずにいるのは、智影の口から直接「降参」と言わせる為だったらしい。
だが、衣服を切り裂かれた上に胸を狗尾草で弄ばれた末に自ら降参宣言など、これ以上のない恥である。

「……じょ、冗談じゃないッ」

誰が根をあげるものかと思わず強がりを吐き捨てたのだが、ほどなくして智影はそれを後悔する事となる。

「あっそ。じゃあ、もっと苛めてあげるから……。弥生、こっちにおいで!」

強情を張り続ける智影を嘲笑った後、葉月は先ほど敗北したくのいちの少女、弥生をこの場へと呼びつけた。

「こいつのイチモツ、足で踏んでやりな」
「えええっ」

あまりの要求に、いよいよ意識が遠のきかける。
ほとんど裸に剥かれた上、股間を足蹴にされるなど冗談ではない。
そもそもの話、あの一生懸命で真面目な少女がそのような辱めに手を貸すはずがないだろうと思わず毒づきかけたのだが――。

「わ、わかったよ、葉月姉!」

なにを思ったか、彼女――弥生は葉月のとんでもない命令に対してひどく従順に頷いてみせたのだ。

「いい子だね、弥生は」

駆け寄ってきた弥生をもその腕に引き寄せて抱擁を送りつつ、葉月は再び苦無を手にするとその切っ先で袴をすっかりと破りきってしまった。
結果的に忍装束をすべて裂かれてしまった智影は今、褌一丁というあられもない姿を群集に晒していた。

「いいかい、弥生。あんまり強く踏むんじゃないよ」
「う、うんっ」

遂に言葉を失った智影をよそに、弥生は促されるまま足袋を履いたその足で、ぎゅむっと柔く褌越しに股間を踏みつける。
痛みはない。だが、小刻みに何度も繰り返されるその行為は却って劣情を煽る快楽となり、より一層の羞恥を爪先から呼び起こした。

「あ、ッ……。く……!」
「あれっ、なんか膨らんできたよ」

無邪気に弥生が踏みつけた股間の現状を口にした瞬間、固唾をのんで戦況を見守っていたくのいち集団の見物人たちから歓喜と軽蔑の入り混じった歓声と野次が沸き上がる。
弥生は足元の膨らみが何を意味しているのか、いまいち理解していないようであったが、それは紛れもない興奮の兆し――要するに勃起だ。
巻き付けた褌を押し上げるようにして硬度を増すそれの感触がくすぐったいのか、弥生は無邪気なことにケタケタと笑い声をあげながら、相変わらず絶妙な加減で智影の股間を踏みつけ続けている。
背後の葉月もまた、狗尾草で胸の突起を擽り続けていた。

「こっちも硬くなってきてるじゃん」

突起を擽る穂の動きが、より小刻みなものへと変わる。

「どーお? 初めて弄ばれる気分は」
「うっ、くそぉ……ッ」
「っていうか、結構イイもの持ってるんだね」

このまま勃起し続けたら、褌が解けちゃうかも――と吐息交じりに囁かれた瞬間、まるで時機を見計らっていたかのようにするりと布が滑る。

「ああっ」

他の男子に比べ、やや大きめのそれは遂に褌を脱ぎ捨て、くのいちたちの眼前に姿を現した。

(以下略)
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